千夜祭
「さっきまで自分は参加する側じゃないって言ってたクセに……」
久々に低燃費モードの小さな小動物の姿になったパッシオを肩に乗せ、城下町に繰り出すとパッシオが苦情を漏らす。
ホントはそれが一番なのは理解している。防犯面でもそうだし、祭りとは民衆のもの。無礼講の席とは言え、偉い人がそこにいたら遠慮と萎縮で自由を制限されてしまう。
「いいじゃねぇかよ。ここんところ息抜きすらまともにしてねぇんだからよ。ケチケチしてる男は嫌われるぜ」
とは言え、それは公然と姿を見せた場合の話だ。堂々といつもの姿で行けばすぐにバレるだろうけど、手段を用意すればリスクは減らせる。
「はぁ……」
「それに、自慢の祭りなんだろ。祭りを真白にみせるなら、中から見せなきゃ意味ねぇだろ」
「それはまぁ、一理あるけどね。本当に見せたかった光景はまさに今目の前に広がっている光景だよ」
心労から溜め息を吐くパッシオとそれに笑いながら正論をぶつける碧ちゃんの光景もなんだか久々に見る気がする。
3年前にはよくあった光景のひとつだ。懐かしくも思うし、変わってしまった物悲しさのようなものも感じる。
悪いことじゃないんだけどね。
「しっかし、相変わらず器用なもんだぜ。半分だけ変身するとはな」
「皆と出会ったばかりの頃にも使ってたテクニックよ。魔力コントロールさえしっかり出来れば、多分そう難しくもないと思うけど」
「言ってくれるぜ。常にスイッチのON・OFFを操作し続けろって言ってるようなもんだぜ」
「半分妖精って都合もあるだろうし、誰にでも出来ることじゃないよ。髪の長さも弄ってるしね」
今回、私が変装に用いているのは3年前、朱莉達と出会った頃に使っていた方法だ。
変身しているけど、変身し切っていない。そんな中途半端な状態を維持し続ける。そんな手段は碧ちゃん達からすると荒唐無稽な方法、らしい。
高等技術なのは当たり前に理解はしている。同じことをしている突飛な人もいないしね。
そもそも平時では全く必要のない技術だし、パッシオの言う通り私が半分妖精だからこそ出来る可能性はある。
「それにしてもなんか違和感あるなぁ」
「その見た目で髪が短いのは初めてだよね」
「そんなに見た目印象が変わるなら、変装として十分に効果がありそうね」
今の私はアリウムフルールに変身した時の真っ白な髪とエメラルドグリーン色の瞳をもった一風変わった見た目の少女、といったところだろうか。
髪は短く、肩口で切り揃えている。いつも変身すれば腰まで長い髪になるけど、それを変化させているわけだ。
因みに、この髪型の変化は妖精側の特性を利用している。流石の魔法少女の変身も、変身後の姿を自由自在に変えられるわけじゃない。
服装は半変身状態だから普通の衣服だ。違和感のないように出来るだけ庶民的なモノをチョイスしている。
一部例外として、稀に身体や精神の成長に応じて見た目が変わる子もいたりはするけどね。
「私のことなんかより、お祭りを楽しみましょ。碧ちゃん、昴さん達のところに案内してもらっていい?」
「アイツらも巻き込むのかよ」
「お祭りは皆で回った方が楽しいでしょ?」
とにかく、私は無事に城下町に潜り込むことに成功した。
あとは千夜祭を楽しむためのメンツを揃えるだけだ。今日のところは昴さん達との交流を深めるのにうってつけなイベントだし、たまには上司と部下のような関係じゃなくて、友人のように接するのもアリだろう。
「パッシオも、千夜祭の案内よろしくね」
「はいはい、仰せつかりました」
文句を言うことを諦めたパッシオが呆れ顔で返事をするのを横目で見ながら、昴さんに連絡を取っている碧ちゃんの様子を待つ。
楽しみね。お祭りなんて、いつぶりかしら。




