獣の正体
獣の正体を探っていく中でまさか妖精という種族についての謎まで浮かんで来たのは予想外でした。
謎が謎を呼ぶ、とは言いますがこうも連続してこなくてもいいじゃないですか。
「何処から妖精が出て来る」
「それも不自然なんです。見てください。さっきまでひと文字も出て来なかった妖精が三大国建国の少し前にいきなり登場するんです」
『獣の王』を追い返し、妖精界に平穏が訪れると突然妖精が現れる。
妖精界で信奉される二柱の神、『天空の神』と『太陽の神』が1人の妖精に神器を託すところで妖精という存在が突然現れる。
種族間の戦争があった時代も、『獣の王』と戦った時も妖精という記述は無く、主に中心にいたのはエルフや魔族、ドラゴンといった高い戦闘能力を有する種族ばかり。
今、世界を牛耳る妖精はそこまで出て来なかったのに、まるで突然湧いて出て来たように現れた。
今までは小規模なのだったとしても、のちの王になるほどなら早い段階から中心にいたはず。
いなかったのだとしても途中からメキメキと頭角を表せばやはり記述があって然るべきでしょう。
「妖精は、どこから来たのでしょう」
「確かに不思議だね。まるで獣と入れ替わるように……」
そこまでリアンシが言葉を発したのを聞いて、私はハッとします。
リアンシも同じタイミングで同じことをに思い至ったのでしょう。
ですが、まさかそんなことがあるのでしょうか?だとしたら、この世界を根幹から揺るがす真実となります。
まだ疑問も残りますがそう考えると妖精とは何なのか、獣とはなんなのかに一応の説明がついてしまう。
あぁ、そうだ。妖精がどうして不定形なのかも。魔力の塊が魂を伴って意思を持ったという他にはない特徴を持つのかも。
前の世代の命を介さずにどうして産まれて来るのかも。
挙句にはビーストメモリーについても整合性が取れてしまう。
私が知る中ではビーストメモリーは『妖精以外』にしか使われていない。
もし私達が思い至ったことが事実なら……!!
「……真白さん!!」
「ユカリっ?!」
書庫から大慌てで飛び出す私をリアンシも追いかけて来ます。
書庫の奥まったところなので出るのが面倒です。流石の樹王種もこれだけの所蔵がある部屋の床に穴は開けてはくれません。
「そんなに大急ぎすることか?!まだ検証も−−」
「既に墨亜さんが未来視で見ているんです!!」
「なっ?!」
真白さん達に急いで連絡しないと手遅れになります。
あぁ、どうしてこういう時にスマホを部屋に置いて来てしまったのでしょう。
いつもなら携帯しているのに、何気なくすぐに戻るだろうからと机の上に置きっぱなしです。
「っ?!」
「今度は何だ?!」
急ぐ私達を今度は地響きが襲います。大した揺れではありませんが、地震なんてこっちに来てから一度も経験していません。
何かが起きている。経験から来るそんな勘が身体を突き動かします。
そうしてやっと書庫の入り口を駆け抜けようとすると今度は入り口にあるカウンターから何かが飛び出して来ました。
「アァアッ!!!!」
「っ!! やっぱり、妖精は……!!」
書庫の管理人。司書として本の管理を仕事にしていた、今まさに私に襲いかかって来た女性は『妖精』だ。
まるで獣のように、牙を剥き、理性を失った目で私に踊りかかって来る様子は、隷属紋に操られた人にも似ている。
そういう、ことですか。全て、全てはそこに繋がっていたのですか。
だとするなら、なんて。なんて残酷な……。
「ユカリ!!」
「問題ありません!!」
襲いかかって来た司書さんを魔法で拘束し、無力化します。
四肢を魔法で縛られてもなお、爪と牙を剥き出しにして暴れ回ろうとする彼女はやはり獣のようで。
「『獣』とは、『妖精』のことだったんですね」
こうして突き付けられた現実が、どうしようもなく受け入れ難いモノ過ぎて、私はどうしたら良いのでしょうか。




