到着、スフィア公国
何かを食べようと思ったけど、何処も準備で大忙しでレストランやカフェの類は人でごった返している。
結果として私達は公国の首都に来ているのにも関わらず、街の外れで自分達で作ったご飯を食べるというなんとも変なことをしているのだった。
「ホント物好き。私が作った方が良いなんて」
「あの人混みじゃ気も休まらないだろ?それに、妖精界の料理レベルじゃスミアのこのスープには何処も勝てないよ。僕が食べた料理のTOP10は全部スミアの料理だ」
「はいはい」
スミアの料理が食べたいと最終的に言われた私の気持ちがわかるだろうか。いや、自分でもよくわかんない変な気持ちになったけどさ。
ここに来て私が作るのか、というめんどくさいという気持ちと、私のが美味しいからそっちが良いと言われてほんのり嬉しい気持ち。
どっちもない混ぜになりながら作った適当なスープはスタンのお気に召したらしい。
わざわざむず痒いことを言ってくるのを雑にいなしながら、緩みそうになった表情を器で隠して一緒に喉の奥に流し込む。
「リアンシさんにはあぁ、言われたけどどうするの?一緒に来るの?」
「ああ言って来たってことはそっちの方が都合が良いってことさ。少なくとも僕より全体像が把握出来てるだろうし、今のところは指示に従っておこうと思うよ」
私達は何が起こってるのかちゃんと把握してないのは確かにその通り。
リアンシさん的には他の思惑の方が大きそうだけど、それをスタンに伝える必要もないし、黙っておく。
……私がスタンとの旅が終わるのが名残惜しいと感じてるってことを見透かされたのを伝えるってことだし。
「公国で旅も終わりかと思ったけど、思いもよらず伸びたね」
「そろそろ腐れ縁って呼べるかも」
「確かに。むしろそうであって欲しいまであるね。そのくらい、スミアとの旅は楽しかったよ」
スープを啜り、それを温めるための焚き火の弾ける音を聞きながら、もうちょっとだけ続く2人旅について、そして今までの旅の感想を言い合う。
戦争しているような、世界が危機に陥っているって中で随分と平和な旅が出来たと思う。
スタンの言う通り、凄く楽しかった。ずっと、そうしていたいと思ってしまうくらいには。
「……正直、ずっと続いてほしいと思ってるんだ」
「何が?」
「この旅がさ。世界がめちゃくちゃで、兄を止めなきゃいけない僕がこんなことを言っちゃいけないとは思ってるんだけどね」
私もだよ、と言えない私はきっと臆病な人間だ。言ったら色んなものが変わってしまいそうで、この心地の良い関係が終わってしまいそうで。
この旅が終わってしまいそうで、私はそのひと言が言えなかった。
「何の目的もない、ただ世界中あっちこっちを今までみたいに一緒に、平和に旅が出来たら、どんなに幸せなんだろうって」
「……でも」
「あぁ、それは無理だ。僕らはこれから戦争に加わる。加わらないといけない。ここから先は物凄く過酷で辛いものになる」
逃げちゃいけない使命。私達にはそれぞれ胸に秘めたそれがある。
スタンはお兄さんを止めるために。私はお姉ちゃんの理想を叶えるために。
お互いが1番尊敬して、1番憧れている人のためにやりたい事が山ほどある。
その先に私達がなりたいものがあるはずだから。
だから、この旅は終わらなきゃいけない。今回はそれを少しだけ伸ばしてもらえた、それだけだ。
「……スミア。もし、君が良ければなんだけど」
「うん」
スタンの何かを決意したような声音に、心臓がどくんっと跳ねる。何か、大事な話を今されてる気がして。
それに舞い上がりそうになってる自分を抑えつけて、スタンの言葉をじっと待つ。
「僕と、いっしょ−−」
直後、街から轟音と共に火の手が上がる。
しかもひとつじゃない。複数、街のあちこちから建物や道路を破壊する音と少し遅れて人々の悲鳴が聞こえて来た。
【星の子!!】
何が起こってるのかわからずに固まる私を叱咤したのは、頭の中に響く古代の英雄、アステラの声だった。




