到着、スフィア公国
紫お姉ちゃんと別れた私はスタンの後を追う。その時、樹王種という特殊な生き物の中にいることを忘れて見事に迷子になりかけたのは笑い話だ。
「スミアにしては凡ミスだったね」
「笑わないでよ。私だって完璧超人じゃないし」
あの完璧主義の真白お姉ちゃんでさえ、ダメな時はダメなんだから、私なんかはもっとダメダメだ。
そもそもまだ15歳なんだから、そのくらいの失敗は当たり前にする。
と誰に伝えるわけでもない言い訳を頭につらつらと浮かべながら、私達は公国の首都、レーヴェンの街を歩いていた。
「樹王種の中を歩くにはコツがいるんだよ」
「何となく分かったからもう大丈夫」
「それなら良かった」
樹王種は信用出来る相手の意思みたいなのを読み取る能力があるっぽくて、何となく何も考えずに足を踏み入れた私を何処に送ってあげればいいのかわからなくなっていたみたいだ。
おかげであっちこっち変なところに通じちゃって大変だった。
最終的にスタンのところに連れてってと声に出して言ったら最短距離で道を作ってくれたけど。
もうそのまんま、最短距離で。
「上から降って来た時は流石に肝を冷やしたよ」
「まさかいきなり足元に穴が空くなんて私も思わなかった」
樹王種的にも焦っていたのかも知れない。スタンのところと言った私の足元にいきなり穴が空いたと思ったら殆ど落下に近いような超急勾配の傾斜で、私はスタンのいるリアンシさんの部屋へと送り込まれた。
スピードは軽く20km/hは出てたんじゃないかな……。
私の悲鳴を聞いて驚きながらも受け止めてくれたスタンには感謝してる。
樹王種も部屋の床や壁をクッションみたいに柔らかくしてくれたから怪我も無し。
リアンシさんが大笑いして床を転げ回って仕事が滞った程度の被害だ。
「そういえばリアンシさんとの話は終わったの?私が遮っちゃったけど」
「平気平気。元々それなりに著名な人ばっかりだから名前だけ教えれば大体なんとかなるよ」
「そんなに凄い人達と知り合いって、本当に歴史とか好きよね。学者になればよかったのに」
「それが1番良かったんだけどさ」
何気なく口にした言葉の迂闊さにハッとする。そんなことはスタンがそれこそ1番思っていることだ。
こんなに歴史が好きで、世界中の遺跡を実際に足を運んで見て調べて来たスタンがなんで学者になっていないのかは少し考えればわかる。
王族のスタンは王族にしては自由だけど、一般の人よりは当たり前に自由はない。
スタンに将来を選ぶ選択肢はほとんどない。少なくともお兄さんである帝王レクスが結婚して子供を産むまではスタンは次の王として保険であり続ける必要がある。
血筋を残すっていうのはそういうこと。人間界でも、たとえば日本でも皇族に将来就く仕事を選ぶ選択肢が殆どないように、スタンも同じような立場だ。
比較的、自由に出来ていただけだ。それも今からスタンはお兄さんに反旗を翻す。
その後、国を治めるのは普通に考えたらスタンだ。
「なんだい?気にしてるのかい?」
「いや、なんか嫌味みたいになっちゃったなって」
「元々スミアは割と語調強めに言ってくるから気にしてないよ」
「む……」
顔を覗き込んで来るスタンに申し訳なさそうに返すと物凄く失礼なことを言って来てイラッとした。
こっちが心配してやってるのにデリカシーの無さはやっぱり妖精なのかと顔を上げると、ポンポンと頭を撫でられる。
ぽかんとしているとスタンは可笑しそうに笑って、別に悪く言ってないよと言う。
「そのくらい気が強いくらいがスミアらしくて僕は好きだよ。大体は僕の方が怖気づくからね。君の姿を見ては僕も頑張らないとっていつも思うんだ」
「……だったら最初からそう言いなさいよ」
「こうでも言わないと君は顔をあげてくれないからね」
イタズラが成功したみたいに言うスタンの足を蹴って、レーヴェンの街を進む。
とりあえずなんかご飯食べよう。何かあれば良いけど。




