到着、スフィア公国
「確かに考えてなかった部分だな。爺さん、旧王国でお偉いさんだったんだろ?当時のショルシエのことは知ってるか?」
「その頃には退役しとりましたからなぁ……。当時の魔法研究の第一人者であるピット殿が保護した少女がソレだったくらいしか」
ガンテツさん真広が聞くけど首を横に振られる。つまりショルシエたち獣が本当のところなんなのか。誰も分かっていない。
てっきり私は妖精なのかと思っていたんだけど、それは違うのか。
「仮に妖精だとしたら、妖精に『獣の力』ないし特性のようなものを与えている親玉がいると考えられるからね。ショルシエ自体が獣なのか、獣の力を与えられた妖精なのかで対応がだいぶ変わると思わない?」
確かにスタンの言う通りだ。未だ見ぬ親玉がいるのかいないのか話にもなって来るし、さっき言っていた妖精用の対策が効くのか効かないのかの話にもなって来る。
対応はガラリと変わると言ってもいい。全く別の状況になるってやつだ。
「個人的にはショルシエが『獣の王』で彼らは妖精ではなく獣という別種存在であった方が都合が良いね」
「ただし、ビーストメモリーと呼ばれる『獣の力』を宿したメモリーの存在は既に把握しています。一般人をこれで暴走させた例も発生していますし、『獣の力』は付与出来るという点はしっかりと覚えておきましょう」
噂には聞いてるビーストメモリー。私はまだ見た事が無いけど、どう考えても邪悪のそれだ。
隷属紋と同等かそれ以上に最悪で最低の倫理観のカケラもない代物であることだけは理解出来る。
紫お姉ちゃんの警告には全員で首を縦に振って、しっかりと頭に叩き込んだ。
「でもどうするの?ショルシエが獣かそれ以外かなんてわかんなくない?」
それを私達がすぐ知る術は無い。マロンさんの疑問も最もだけど、それを解決するための案はもうスタンが頭に思い浮かべているらしい。
「すぐにはわからないけど、ヒントはあると思う。古代の文献に残る『獣の王』の記述を読み解けば、少なくとも近付けるんじゃないかな」
「ショルシエの正体、獣とは何なのかを知るには古代にもあった『獣の王』との戦いを知る必要がある。ということですな」
すぐに口を開いたスタンにガンテツさんが大きな身体を揺らしながらうんうんと頷く。
ショルシエの正体。獣とは『獣の王』とはなんなのか。それを私達が理解するには古代にもあったらしい『獣の王』との戦いについて調べる必要がある。
古い事を調べて、今知りたいことの真相を突き止めるなんて不思議だけど、きっとそれがスタンが好きなことなんだよね。
まさかここに来てそういう知識が役立つかも知れないなんて、スタンが1番思ってなさそう。
「そうと決まればすぐに調べましょう。私は公国の文献を調べます」
「僕も手伝います。あと、ユニヴェル教授をはじめとした歴史や考古学に詳しい人達からの知識も借りましょう。僕のコネも使ってください」
「じゃあボク達はまた轟きの遺跡に戻って発掘調査のボディーガードっすね」
「連絡役もね。地味な仕事だなぁ」
方針さえ決まれば、あれよあれよと役割が決まって来る。スタンは紫お姉ちゃんの手伝い。
舞お姉ちゃんとマロンさんは轟きの遺跡という場所に戻るらしい。
遺跡と言うからには今回の話にも絡んで来てそうだ。とにかく情報が欲しい今、発掘調査中の新しい遺跡なんて何か出て来てもおかしくないし。
「私は真白お姉ちゃんのところに行かないと、かな」
「流石にお前はな。千草も結局は一度も顔を見せずにどっかに修行しに行ったから、相当気を揉んでるハズだ」
「上を安心させるのは下の義務みたいなもんだしね。やらないと怒られるよ」
私はと言うと、流石に真白お姉ちゃんに一度は顔を見せないと色々と問題がある。
「……」
スタンは公国で、私は旧王国へ。ここで旅も終わりかと改めて実感させられると場違いな寂しさを感じてしまう自分に少しだけ驚いていると、リアンシさんの小さな溜め息が聞こえて来た。




