到着、スフィア公国
遺跡の街、カーセルであったことを私なりに話してみるけど、私はあんまりこういう説明が得意じゃない。真白お姉ちゃんとか、紫お姉ちゃんみたいに伝わるように噛み砕いて話せているかは不安だ。
話を振られちゃった以上は何もしないわけにもいかないし、スタンと比べると途切れ途切れの言葉でなんとか説明をしていく。
「英雄アステラの後継者、か。俄かには信じ難いけどね」
「でも、事実として未来視の力は手に入れました。……全然制御出来てないですけど」
古代の英雄の1人。アステラから未来をも視る力を継承したことは私だって信じられないけど、実際未来と思われる光景を何度か見ている。少なくとも星の神殿に行くまでは無かったことだから、何らかの影響は受けていると思う。
「制御出来ないんじゃねぇ」
「未来視が事実だとすれば、かなり強大な力ですから無理もありません。墨亜ちゃん、未来視の力を使った時、頭とかは痛くありませんか?」
「今のところそういうのは無いよ」
「そうですか。異常を感じたらすぐに言ってください。何かあってからでは遅いですから」
未来視の力には猜疑的なリアンシさんに対して、紫お姉ちゃんは私の事が心配みたいだ。
何故だろうと一瞬考えるとすぐに思い当たることがある。
雛森さんだ。『千里眼の魔法少女 ヴェルタ―』の持つ千里眼はありとあらゆる情報にアクセスするとんでもない魔法を使えた。
でも、その魔法は脳に物凄い負担をかけていたらしい。人間界を救った10人の魔法少女を影で支えた雛森さんは魔法少女でありながら、もう二度と魔法が使えない身体になっているらしいし。
同じように未来視なんてとんでもない力。雛森さんと同じように、物凄い負担を脳にかけている可能性は確かにあるよね。
……それでも使えるな使うけどね。そのための力だし、この力が必要になるから英雄アステラは私にその力を継がせたわけだし。
「……無理は絶対にしないでください」
「うん、わかってる」
もう一度釘を刺されて、この話はお終いだ。まだ制御も何も出来てないし、何より本題じゃない。
今の話の本題は『獣の王』、『古き獣』と呼ばれている存在についてだ。
その話は英雄アステラからとても端的にだけど聞いている。太古の時代に突然現れたバケモノってことくらいだけどさ。
【時は騒乱の時代。狂いし剣が鏡を割り、玉に迫る。古き獣、その様を嘲笑いて至福とする。
しかして外来の者現れ、畏れた古き獣は身を隠し、嘲笑を続ける。
外来の者、古き獣を滅さんと多くの者と手を取り合い、古き獣に立ち向かう。
古き獣、己の身を分けこれと戦う。そして変わらず身を隠したまま嘲笑った。遥か遠くを見通す『綺羅星』、古き獣を暴き出す力有り。『綺羅星』を守り、戦いに備えよ】
そう書かれたメモをスタンが取り出し、皆に回す。これはスタンの協力者であり、天文学者のユニヴェル教授がアステラからのメッセージを解読したものだ。
これが何を意味しているのか、それ自体を把握すること自体はそんなに難しくも無いんだけど、情報が端的過ぎるのがやっぱり難点だよね。
「ふぅむ。最初の一文は最近起こったことに酷似しておりますな」
「英雄アステラの持つ未来視の力ってヤツ?」
「時期的にはそうかと。僕らも最初は何のことかわかりませんでしたが、警告するためのメッセージと情報の伝達のためのもの。それぞれ別のメッセージが解読の際に混ざってしまったのかもしれません」
「解読者のユニヴェル教授が妖精界ではアステラのメッセージを一番受け取れるらしいんだけど、それでも完璧じゃない的な事は言ってた」
妖精界に迫る『獣の王』の脅威。それを案じてアステラは沢山のメッセージをこっちに送ってたっぽいし、メッセージが混戦してしまうのも仕方のないことかもしれない。
『獣の王』とその分け身。それが何なのかを紐解くところから始めなきゃいけないっていうのが状況をややこしくしているんだろうな。




