到着、スフィア公国
スフィア公国の首都、『レーヴェン』へとようやくたどり着いた私達は紫お姉ちゃんとその婚約者であり、公国領主のリアンシさんという妖精界の王族に手厚く出迎えを受けて、王城の役割を持つという『樹王種』という巨大な樹木の中を案内されていた。
「不思議な樹ですね。自分から内部構造を操るなんて、まるで意思があるみたいです」
「人間界の一般的な植物とは根本的な部分で違うところはあると思いますよ。共生のようなものなのでしょうね」
王族であるリアンシさんを先頭に、私達が進むのに合わせて通路の形を変えていく樹王種という生き物。
聞いた話ではこの樹の根っこが公国の領地の大半に張り巡らされていて、それを利用したソナーのようなもので公国は高い防衛能力を有しているらしい。
紫お姉ちゃんの言う通り、この国住む人たちと共生関係にあるんだと思う。樹王種が人々や王族に安全を提供し、人々が樹王種を守る。
そんな関係があるのだと思う。少なくともそうじゃなきゃ、樹王種という生き物が自分の内側に住まいを作られても排除しない理由がない。
「何言ってるかわかる?」
「いや、難しくさっぱり……」
「だよね。人間ってのは凄いね。多分、僕らが興味を示さなかったあらゆる分野において、素早く分析と理解を進めちゃうんだからさ」
私と紫お姉ちゃんの前ではリアンシさんとスタンが私達の話を聞いて首を傾げている。確かに小難しい話だけど、人間全体がこういう人ばっかりってわけじゃないんだけどな。
大半の人は自分の周囲にある不思議や高い技術にそこまで関心が無いんだけど、一々そこを否定するのは面倒だし、止めておこう。
「さて、ここで話をしようか。眺めも良いし、お茶をしながら喋るにはうってつけだろ?」
「遊びじゃないんですよ?」
「だからと言って、一から十まで堅苦しくやる理由も無いさ」
連れて来られたのは樹王種の中でもかなり高いところにある場所。テラス席のようになっているそこからは、樹王種の根元に住まいを構え、首都を形成する街並みと人々を良く見ることが出来た。
王族の特等席、って感じかな。ここから遠目に国民の生活を観察しているのだろう。国を治める王族だからこその場所だ。
「そういえば、真広は?レーヴェンに着いた瞬間どっかに行ったんだけど」
「ここにいるぞ」
「うわっ?!」
私達の護衛兼案内役をしていたはずの真広の姿がさっきから見えない事を口にすると、樹王種の太い枝の上からいきなり降りて来る。
思わずびっくりしてしまって、腹が立ったので睨んでおく。こんなの効かないことは百も承知だけど、文句のひとつくらいは示しても良いと思う。
「スミア殿、よくご無事で」
「思ったより元気そうじゃん」
「お久しぶりっす!!」
そうしているうちに続々と馴染みのある顔ぶれが揃って来る。レジスタンスのガンテツさんにマロンさん。魔法少女側からは舞お姉ちゃんが公国側で活動をしているらしかった。
「じゃあ、席についたら早速情報交換と今後の予定を話し合おうか」
リアンシさんの音頭で私達はそれぞれ用意された椅子に腰かけて、どこからともなく現れた給仕をしてくれるメイドや執事に該当するだろう人達がてきぱきとテーブルをセットすると、あっという間に私達が簡単な会議をするための場が設けられた。
従者の人って何処も皆こんな感じなのかな……。諸星の人達もそうだけど、忍者みたいだといつも思う。
「まずはスタン。君の話を聞かせてくれ。帝王レクスに1番近い立場の君からの情報ほど信頼性の高い情報はない」
「では失礼して。僕はスタン。スタン・イニーツィア・ダイナ・ズワルド。ズワルド帝国の王、レクスの実の弟です」
割とどうでも良いことを思い浮かべつつ、スタンがまずはこれまでの事や自分の立場を口にし始めた。
まあ、私はスタンのことはよく知ってるしここは聞き流しても大丈夫かな。私が出せる情報も特に無いし、スタンに丸投げしよう。
そう決めて出されたお茶を口にする。不思議な味だけど落ち着く。
またお姉ちゃん達とのんびりお茶会をしたいな。




