獣道
「逃がさない……!!」
魔法を破壊されたことで何かがあることを確信させられた私はヒレを力強く動かして一気に加速します。
幸い、何処の路地裏に入り込んだか、そこまでは見えました。
何をするつもりなのかは知りませんが、必ず捕まえます。最初の罪状はレジスタンスの治安維持行為の妨害で十分でしょう。
一度でも拘束できればやりようはいくらでもあります。
驚く人々の合間を縫って駆け抜けた私は、最後にドゥーシマン氏を見た路地裏の入口に辿り着き、その周囲にドゥーシマン氏の姿が無いことを確認。
すぐに路地裏へと入り、ドゥーシマン氏のことを追いかけます。
深追いはするな、という碧お姉様の忠告をすっかり忘れて。
「いけませんねぇ、愛しのお姉様からの言い付けを破っては」
「っ!!」
裏路地の奥。大通りからは見えない入り組んだ場所。ドゥーシマン氏の痕跡と思われる足跡などを確認しながら進むと、待ち構えていたドゥーシマン氏がニタリとした笑みを貼り付けて、私を待ち構えていました。
すぐさま攻撃態勢に入ると、そのまま攻撃。連中の言葉なんて聞く価値はありません。
奴らは敵。敵は倒す。それだけです。慈悲も情けも必要はありません。
「おっとおっと、野蛮ですねぇ。魔法少女はもうちょっとは話を聞いてくれましたよ」
「私は貴方の話を聞く理由はありませんから」
お姉様達は情報を得るために敵は出来るだけ生け取りにしようとしますし、慎重な傾向にあります。
ですが、生憎私は旧ミルディース王国生まれミルディース育ち。
故郷と家族をめちゃくちゃにした敵を殺す以外に何がありますか?
水の魔法を次々と放ち、ドゥーシマン氏の身体へと直言しますが、本人はまるで意に介してない様子。
手応えはあります。実は防御されている様子も、避けられている様子もありません。
幻覚の類でもないでしょう。間違いなくダメージを受けているはずなのにその様子を見せない。
違和感を感じて攻撃を止めると、ドゥーシマン氏は口から血を流しながら、高笑いをし始めます。
「酷いですなぁ。私は何も悪いことをしていないのに」
「戯言ですね。監視を受けていることに気付いていても、その監視を振り切れば疑いをかけられるのは当然です。ましてや魔法を破壊したとなれば、十分な敵対行為ですよ」
「くふふふ……。頭は回るようですが、まだまだ甘いですよ。私は悪いことをしていませんよ、私はね……?!」
ぎょろぎょろと目を動かしてそう語ったドゥーシマン氏の目に一瞬の感情が見えたと思うと、その場に崩れ落ちます。
何が起こったのかわからないまま、ドゥーシマン氏の言葉を反芻し、状況を理解した時にはもう手遅れ。
「狙い通りの獲物が引っかかってくれて良かったよ」
「うぐぁっ?!」
背後から声が聞こえたと思ったらそのまま地面へと組み伏せられました。
周囲の警戒を怠っていたわけではありません。ですが、先程のドゥーシマン氏のように何処からともなく現れて……。
「転移魔法……!! 一体いつから!!」
「君、頭は良いけど詰めが甘いね。おかげで面白いくらい簡単に誘い込めたよ」
「離せ!!」
ジタバタと暴れようとするものの、完全にマウントポジションを取られてしまい、身じろぎするのが精一杯。
私の上に跨がる。恐らく少年、あるいは若い男性は私を嘲笑うように鼻を鳴らすとより強い力で私を押さえ付けました。
地面へと擦り付けるように顔を押し付けられ、口の中にじゃりじゃりと砂が入ってくる不快感と、硬い地面に押し付けられている痛み。
それ以上に自分の不覚で相手が望んだ通りの展開だという事実が私をより強い力で暴れさせます。
「おいおいとんだじゃじゃ馬だね。いいところのお嬢様ってやつなんだろう?」
「死ね!!」
自分がダメージを負うのを躊躇わず、魔力をめちゃくちゃに放って吹き飛ばそうと試みた私は、目論見通り男性を引き剥がすことに成功します。
しかし、すぐに立ち上がり態勢を立て直してもなお、私の不利が変わることはありませんでした。




