二国間会議、開幕
「それでも知ってる事や気になっていたところはないのか?ほんの少しの情報が突破口になることはままある事だ」
ショルシエの出生については今のところ誰も知らない。だとしたら別の切り口で行こう。
真広の質問はそういった切り口だ。過去にも思いもしなかった小さな要素が突破口を切り拓いて来たことは沢山あった。
とにかく情報があることでその小さな穴をたくさん集め、大きな穴にする。
私達のすることはそういうこと。ほんの小さな点でも良い。ショルシエについてほんの少しでもピットさんの疑問に触れる部分があれば、それを教えて欲しかった。
「うーん……。気になるところと言えば、彼女の特徴というか性質と言いますか、当時から周囲とは隔絶していたという事でしょうか」
「というと?」
「とにかく吸収力に関しては凄まじいものを持っていました。知識、経験、食べ物からあらゆる事柄において、吸収し自分の力とする能力は異常とも思えるスピードでした」
質問してみるとなんとか絞り出してくれた。ピットさんはそう答えてくれた。
吸収力。言い換えれば成長スピードが異様に速かった、ということらしい。知識の面でもそうだし、この言い分だと身体的なスピードも速かったのだと思う。
「何か具体的なもので表すと、どのようなものでしたか?」
「学問は数年で学者レベルに、身体もあっという間に大人と変わらない大きさにまで成長しました。と言っても体の大きさは個人差がかなり出ますから、特に顕著だったのは知識の方でしょう。専門書を与えれば、あっという間にそこにあった知識を自分のものにしてしまう。そんな能力がありました」
「当時は何も思わなかったの?」
「当時の私は世界の未来を大きく発展させてくれるだろう、天才を発見したと浮かれておりました。それが、まさか……」
拾った子供がありとあらゆる知識と経験を吸収していく天才だった。少なくとも、ショルシエが魔女と呼ばれるその前だったら、そういう評価になってもおかしくないだろう。
世界の発展に大きく寄与するだろう天才を見つけたと思ったら、世界を壊す魔女だっただなんて誰が思うだろう。
それまでに怪しいことをしていなかったのなら尚更だ。
「以前から怪しい行動は無かったのか?」
「私の目にはそういった様子は全く。少々無愛想で変わった言動をする子ではありましたが、他の研究員からも可愛がられていました」
「その時からクーデターの計画を立てていたのかは?」
「分かりません。私は、彼女の真意を何一つ汲み取ることが出来ず、『災厄の魔女』を育ててしまいました。彼女がずっと大きな闇を抱えて生きて来たのか、それともそういったモノですら無かったのか私は今も分かっておりません」
真広や紫ちゃんから矢継ぎ早に質問を浴びせられる物の、ピットさんの答えは首を横に振るばかり。
最初からショルシエがクーデターを企てていたのか。悪意は理由があって生まれたものなのか、そうで無いのかすら、ピットさんは分からないと答える。
あの魔女が完璧に隠し通し、長年に渡って遂行した犯行なのかすらもう誰も分からない。知っているのだとしたらショルシエ本人だけだが、あの魔女がそんなことを話すクチではないだろう。
「私から言えるのはあの魔女を世に放ってしまった責任の一端は私にあり、命を以てしても償えぬ罪でありましょう。生い先短い爺ではありますが、この頭蓋に溜め込んだ知識。この世界の安寧の為にどうぞお使いください」
「……」
ピットさんはそう言って深々と頭を下げる。どんなに理由を並べても、彼は確かにショルシエの育ての親であり、この不始末は親が付けるというのはわかる。
だからこそ、やはり何故このような真っ当な人の元で育ったショルシエがああも怪物と化してしまったのかが不明瞭であり、不可解な話でもあった。
『災厄の魔女』は何者なのか、その謎は深まるばかりだ。




