二国間会議、開幕
「ショルシエの正体と『獣の王』について、か。あまり憶測でモノを言うのは好きじゃないんだけどね」
会議が始まってそう漏らしたのは公国領主のリアンシ様だ。
この場にいる誰もがそうは思っているだろうけど、憶測で。いや、予想を立てて議論をするのも重要なことだと思う。
得体の知れない存在であるショルシエと、未だ詳細のわからない『獣の王』。これをあらゆる視点から考察し、事前の対策を立てるか立てないかでは違うものがあるハズだ。
「そうは言っても必要なことよ」
「でも『獣の王』は所詮は御伽話。ショルシエは妖精」
リアンシ様の言うことも最もだし、朱莉の必要なことだっていうのも事実だ。
事実として起きたことから推理したいリアンシ様と断片的な情報から推測していきたい私達とでは、普段からの考え方の違いもあると思う。
「……ってことで済ませておきたいのは、やまやまだけどね。現実はそうもいかないか」
「そういうことです。超大な魔力や分身を作ったりなどの特殊な能力。目的が何なのかもハッキリしない以上、あらゆる視点から予想を立てなければなりません」
ただし、今回ばかりはリアンシ様もこの内容で話し合うことには納得せざるを得ないようで、やれやれとわざとらしいリアクションを取りながら、頬杖をついて会議に臨む様子だ。
私も口にした通り、ショルシエという妖精の詳細について私達は殆ど何も知らない。
生まれ故郷、親族といった出生などがわかれば何か掴めそうなものなのに、そういった情報は全く入って来ない。
「じゃあ話してもらおうかしら。ショルシエの育ての親とやらに」
「ピットさん。よろしくお願いします」
「私の知っていることが役に立つのなら、話せる事は全てお話しいたしましょう」
唯一、ショルシエの幼少期をしっているのは昴さんを保護し、ここまで送り届けてくれたピットさん。
かつてはミルディース王国の研究所の所長を務め、ショルシエを育てたその人だ。
まずは彼の話を聞いてみよう。
「成る程。ぶっちゃけた話、ショルシエがどこの誰なのか全く知らないってわけね」
「そうなります。サンティエの外れでぼろぼろになっていた彼女を拾い、育て、そして裏切られるその時までしか私にはショルシエのことを知りません」
それでもショルシエに育ての親がいたこと自体が驚きだ。勿論、全ての人に親がいるのは当たり前なのだけど、あのショルシエを育てた人がいる。
そういう事実を改めて理解すると、ショルシエがどれだけ異質なのかが分かる。
ピットさんは善人側の人だと思う。捨てられていた子を育てるような人が悪人ということもないだろうしね。
だというのに、ショルシエはああ育った。暴力と理不尽をカタチにしたような存在がどうしてピットさんを育ての親にして生まれてしまったのか。
犯罪学の話を聞きかじったことがあるけど、犯罪とはその人の気質だけでも、その人を取り巻く環境だけではなく。
その人の気質と取り巻く環境。その2つが決定的な部分で合致してしまった時に起こるモノ、なのだそうだ。
例えサイコパスのような気質の人でも周囲の環境が良ければ犯罪にははしりにくいし、逆にごく普通の感性を持つ人は環境がどんなに辛くても犯罪を行う可能性はあまりない。
気質と環境。2つが揃ってしまった時、犯罪とは起こりやすいのだと。
そういった話を聞いたことがあるし、これには一定の納得が出来る。
勿論、この理論が通用しない人もいるのだろう。ショルシエがそうだと言われればそれまでなのだけども。
だとしたってあの魔女は異常だ。異常者を理解しようとすること自体が間違っているのかも知れないけど、この得体の知れなさの正体くらいは突き止めておきたい。
何度でも言うように知らなかったり、想定出来ていないより、知ってたり想定出来ていた方が良いに決まってるのだから。




