二国間会議、開幕
こういう感情は自分の口で直接伝えるモノだと思う。間違っても誰かが誰かの好きな人に、あの子って君のことを好きらしいよ。なんてことを言うのはナンセンスだと私は思う。
同時にお互いの感情を何となく知っている間柄であるなら、もしくは相手の気持ちをなんらかの事故なんかで知ってしまった場合。
その知ってしまった事を相手にわざわざ伝えることもナンセンスだと私は思っている。
だって、もしその気持ちを伝えようとタイミングを図っているのだとしたら、その覚悟と準備を台無しにしてしまう。
逆にそれを秘めようとしている人からしたら、自分の気持ちが自分の意図しない形で伝わってしまった事になる。
それはその人にとってとっても大きなストレスだし、ショックな出来事。仮にそれを茶化されたのだとしたら、最悪だ。
その子は自分を惨めに思って、元想い人の目の前には絶対に現れない。少なくとも私ならそうする。
「しかし、ややこしいことになっちゃいましたね」
「そうですね。誰も悪くはないのですけど、こうもデリケートな内容が、この2人の間となると……」
こそこそと話しをしているグリエと美弥子さんもこの件について作戦会議といったところか。
私はこういう時、完全に戦力外だ。なにせ、自分の感情にも鈍感な上に恋愛の感性は小学生レベルとまで言われた。
年相応の恋愛感性を持ってない私が役に立つというか、自分の恋愛を酷い方向に持っていく自信しかない。
私は私自身のこととなると何故かしくじりまくるのは随分前から分かっていることでもある。
じゃなかったら私はここにいないのだ。成功していた私がいたら、今頃バリバリの医者をしているに違いない。
何度も間違った先に今の私がいる。基本的に私はポンコツなのだ。特に自分の事に関しては。
「真白様はどうしたいのですか?」
「どうしたいと、言われましても……」
「関係を進展させたいのですか?そうではなく、現状維持を?団長は割と積極的に動く方に舵を取るみたいですけど」
部屋に留守番をしていたマーチェにそんなことを言われても、私は頭を抱えるだけだ。パッシオの事は勿論好きだし、出来る限り一緒にいたいという欲があるのも事実だ。
でもそれを許していいのだろうか。私達は人間界と妖精界でそれぞれ生きて来て、いくつもの奇跡が積み重なって、偶然出会っただけ。
本当なら出会う事すらない私達は将来的には別々の世界を生きた方が良い。
とかなんとか、頭の中でいつも通り理屈っぽいことを考える。それの大半は別に間違ったことを言っている訳ではないと思う。
「あーもう!!変な理屈ばっか考えてないで自分の気持ちを言ってください!!」
「ひえ!?い、いや、だって総合的に考えた方が――」
「それは理屈の話です!!私達は貴女の話をしているんです!!貴女が!!どうしたいんですか!!」
業を煮やしたグリエが私に詰め寄って来て、その剣幕に完全に圧倒される。ソファーで縮こまる私に、グリエは腰に手を当ててカンカンだ。
押せ押せな性格のグリエにとって、私の行動力の無さと決断力の無さには嫌気しかささないのだろう。
主人がこのザマで情けなくなってくるというのもあるのかも知れない。
「仕事だったらあんなにキビキビ動けるのに、どうして自分のこととなるとこうなんですかね」
「だからこそ私達がいるのですよ。不器用な方ですから」
「そこが魅力でもあるかと。普段はとてもお強いのに、守ってあげたくなってしまいます」
「……はぁ、確かにそれもそうですね。失礼いたしました」
怒っていたグリエは、美弥子さんとマーチェにたしなめられてその怒りの矛を収める。それにほっと息を撫でおろすと、ですが、とズイっとグリエに詰め寄られてしまう。
「真白様は自分の感情を後回しにし過ぎです。もっと自分の事を優先して考えても良いと思います」
「で、でもそれだと色んな人に迷惑が……」
「それ以上の成果を出している人に誰が文句を言う権利があるんですか?もし言ってくるなら、そいつの目が節穴だし、周りが黙ってませんよ。貴女は既に多くの人の指示を集めているんですから」
ここでそんなことはないと言ったらまた怒られる。なんとなくだけど経験則でそんな気配がして頷くだけにしておくことにした。




