二国間会議、開幕
さて、誰といるかは見当がついたからにはいる場所もおのずとわかってくる。
王族のリアンシ様と一緒にいるとするなら、このブローディア城に設けられた王族用のプライベート空間のどこかにいるのは間違いない。
客室にいないことを考えると、いるのはバルコニーか中庭かのどちらかだ。近いのはバルコニーだし、そちらに向かってみよう。
「リアンシ様に捕まっているのだとしたら、少し面倒そうですけど」
「そうかな?飄々とはしてるけど、目的意識はハッキリしてるし、案外話せばわかるよ」
「その飄々としたところが、団長は苦手なんだと思いますけどね」
「パッシオ様はおどけたりはしますけど、無意味に人を混乱させたりすることはしないですしね」
パッシオがリアンシ様を苦手にしていることは2人とも知っているみたいで、その苦手な相手に絡まれているパッシオに同情しているみたいだ。
確かに無理に苦手な人と喋るのって疲れるしね。リアンシ様はパッシオを面白がってる節もあるし、仕方ない。早く助けてあげるか。
少しだけ歩くペースを上げて、バルコニーへと早足で向かうとビンゴ。
バルコニーに設けられたベンチに腰掛けながら、眼下に広がるサンティエの城下町を見下ろしていた2人は何かを話している様子で。
「僕は真白が好きだ」
やたらと明瞭に、風か何かに乗って耳に届いたパッシオの声と言葉にピタリと足が止まった。
いきなり聞こえて来たその声に、何よりその内容に驚いて頭の中は早々にパニックになる。
パッシオが、私を?え?なんて???
たっぷり時間をかけて、耳に飛び込んで来たその言葉を理解した瞬間。私の頭がぼんっと音を立てて破裂した気がした。
「……あちゃー」
「間が悪い方ですね……」
同じように声が聞こえていただろうグリエと美弥子さんがそれぞれ頭を抱えたり、肩をすくめている様子を見せる中。
私は茹で上がった頭をどうにか冷やそうとして、更に沸騰しそうになっていた。茹で蛸とはこのことだと思う。
ただし、当の本人は頭の隅でそんな悠長なことを考えている余裕すらなかった。
「一旦戻りましょうか」
美弥子さんのひと言により、私達は静かに部屋に戻ることになった。
逃げ出さなかっただけマシだと思って欲しい。昔の私ならバタバタと音を立てて体力の尽きるまで何処かへと逃げ出していたのだろうから。
「とりあえずお水でも飲みますか?」
部屋に戻り、グリエに冷たい水の入ったグラスを渡される。
コクコクと無言で頷き、結露で濡れた綺麗なグラスを落とさないように気をつけながら受け取る。
私はそれをぐびぐびと喉に流し込んで、火照る身体を内側から冷まし、混乱している頭の中をなんとか喉の奥へと水と一緒に流し込んだ。
「ぷはっ」
「少しは落ち着かれましたか?」
「う、うん。なんとか」
そのせいか、私は何とか最低限の冷静さを取り戻したように思う。
変に取り乱しては、無いと思う。火照った頬の感覚はまだ残っているけど、まだどうにでもなる。
バクバクと鳴る心臓もふぅ、っと息を何回か吐いて落ち着いて来た。
うん、大丈夫。
「間が悪かったですね」
「流石に事故ですよ。でもまぁ、姫様もこれでよく分かったんじゃないですか」
「うっ……」
私とパッシオの関係は散々言われていたことで、どっちも好き合っているんだからさっさとくっ付けとどれだけ言われて来たことか。
だからといって今さらそんな関係を変えられないとか、個人的な感情とかお互いの立場とか色々あって、私達は結局そこまで至っていない。
お互い、見て見ぬふりをしてきたというやつだ。それが今、突然に本人から、事故とはいえ突き付けられて混乱してしまうのは許してほしい。
ムードも何もないかも知れないけど、これは完全に事故なのだから誰も悪くもないし、だからこそややこしいことになったな、とも思うのだった。




