二国間会議、開幕
「どっちかしか選べないなんて、そんなバカな話は無い。特に君達ほどの力も立場も持った存在がそんなことでケチってどうする」
ケチってって、そこまで言うかと顔が引き攣る。怒ってるとかそういうのではなく、彼の言っていることに驚いて苦笑いも出来ない。
そんなこと、考えたこともなかったから。
「傲慢になれよ。僕たちはこれからとんでもなく強大な敵に立ち向かわなきゃならないんだ。どっちか1つじゃない。全部やらなきゃいけないんだ。そのくらい傲慢に、貪欲に結果を求めなければいけない」
「なにもそこと比べなくても……」
「ならもっと簡単な話だろ。自分達が今からしなきゃいけない戦いよりもずっと簡単だ。僕が紫を無理矢理にでも婚約者にした時より、君達のそれはもっと簡単だろ」
それはそうだ。きっと、僕と真白の関係はどちらかが手を伸ばせば呆気なく進展すると思う。
妙な我慢比べをしているようなモノなのだ。どちらかが我慢が出来なくなったら、僕達の関係は変わる。
それをしないのは、単に僕らがどちらも遠慮して、怖がって、恥ずかしがっているだけだ。
お互いにつらつらと理由を並べて、変わらない関係というぬるま湯に浸っている。
「このままいったってロクなことにならないのは目に見えてる。僕はプリムラ姉さんの娘である真白さんに幸せになって欲しいし、その幸せには君が絶対に必要だ」
ガッと胸ぐらを掴まれ、引き寄せられる。こんな強い手段を見せられるとは思ってもなかったけど、不思議と不快な感じはない。
喧嘩を売ったり暴力を振るって来ようとしてくるわけじゃない。
不甲斐ない僕を慣れないやり方で叱咤してくれている。
リアンシ様は苦手な人ではあるけど、この人の別の一面を見ることが出来たと思う。
「いい加減動けよ。その欲は出して良い欲だ」
欲、か。欲望というのはあまり良い表現には使われないけど、そのくらいの欲ならむしろ出さないと欲しいものも手に入らない。
リアンシ様が言いたいことはそういうことだと思う。その結果、良いことが起こるなら、欲を出して、多少傲慢や無謀にも思えても手を伸ばせ。
「……すっかり忘れてたなぁ」
最初に手を差し伸べたのは僕だった。昔は何てことは無かったし、あの時の真白は男だったとか、そういう色々な事情はあるけど、あの時確かに手を差し伸ばしたのは、僕だった。
あの時出来たことがどうして今出来ないんだろうな。
不思議なモノだよ。大事に思えば思うほど、触れることが恐ろしくなって来ていた。
「少しは分かってもらえたかな?」
「少しは、ですけど。だけどまぁ、少しは時間がかかります。いきなりハイわかりましたとはならないですから」
「君の性格を考えれば上等だろう。あんまりいきなり詰め寄ると逃げられるしね」
「それは実体験ですか?」
2人でケラケラと笑う。紫ちゃんにかなり強引に詰め寄ったリアンシ様は日頃から割と強行なアプローチをしていたらしいし、まぁそれが身を結んでいるんだから正解か。
真白も真正面から行くと逃げそうだしなぁ。かと言って僕も真正面から行けるほどは、ね。
ここまでボコボコに言われて、自覚もして、流石にこの気持ちから逃げられないことだけは嫌というほど理解した。
「僕は真白が好きだ。もうちょっとしっかりしないと、身限りをつけられてしまうね」
「その調子だ。本人の前で言えたら上出来だけどね」
「いやー、それはまだ」
「ヘタレめ」
そりゃお互いさまでしょう。僕もエースあたりに色々相談してみるかな。
昔みたいな節操の無い付き合いの仕方なんてゴメンだしね。こういうところで昔の自分を呪うよ。
「ところで僕の相談にも乗ってくれよ」
「なんですか?」
「紫の好みとかを教えて欲しいかな。ご機嫌取りが出来るようにならないとね。妻への贈り物は男の甲斐性のひとつだろ?」
抜け目のない人だ。これと決めたら外堀をがっちり埋めに来るね。
紫ちゃんが完全に折れるのも時間の問題、かな?




