二国間会議、開幕
「うーん、落ち着かないわ」
ミルディース城の一画。最も安全なところと言って良い部屋で私はそわそわと落ち着かない様子を隠せずにいた。
「諸星の屋敷とそう変わらないと思うけど?」
二国間会議の初日が終わり、食事会も済ませ、自由時間となった夜。
初めてミルディース城の王族がプライベートな時間を過ごしていた空間に脚を踏み入れた私はどうにもむず痒さというか、何か妙に落ち着けていなかった。
調度品は一流だ。歴史を感じさせるものもあれば、わざわざ人間界から持ち込み、私の身体に合ったものまで用意させている始末。
こんなことをしなくてもレジスタンス本部にある私の部屋で寝泊まりでいいじゃないかと思うけど、体面的にそうもいかないと言うから面倒くさい。
「そうなんだけど、ただの自室と王家の居住空間とはまた別の話じゃない?」
「君はその王族なんだから、ここは君の部屋なんだけどね」
確かにそうなんだけど、どうにもね。ここは私がいるところじゃないという拒否感があるのかしら。
母も人間界へやって来る前はここで過ごしていたのだろうし、ノーヒリスお祖母様もそう。
ここは間違いなく王家のために用意されたものであり、私はその直系。いちゃダメな訳がないんだけど、どうにも私は根っからの頑固者らしい。
王ではない私がここにいる資格はない、そういう考えが無意識のうちからあるわけだ。
今までミルディース城で寝泊まりしたことが一度も無かったのも、そういう考えからだ。
この城は国を守るために王となった人の象徴であり特権だ。
それを持たない私に、ここにいる資格はない。私は本気でそう考えている。
「そんなことを言ったら、僕こそここにいるのは良くないんだけどね。昔、副団長をやってた時ですらここに入る事は許されたことはないんだよ?」
「私が許したから良いの。お祖母様だってオッケー出してたし」
「ああ言えばこう言うね」
五月蝿いなぁ。別に良いじゃん、こんなに広いんだし。1人が2人になったって何も構わないでしょ?
それに2人きりってわけでもないし。
「ひえー、何触るにしても高そうで怖すぎる。壊したら半年くらいお給料無いんじゃない?」
「こ、怖いことを言わないでください。落としたらどうするんですか」
「2人とも、仕事中ですよ。私語は慎んでください」
当然、私の部下であり専属の従者であるグリエとマーチェが騒ぎながら私の髪や爪の手入れをするための道具を運んでくる。
因みに、壊した場合はモノによるけど1月くらいのお給料は飛ぶでしょうね。まぁ、天引きすることなんてしないけど。
「さて、僕は少しお暇しようかな」
「あれ、仕事あったっけ?」
「流石にレディーのプライベート過ぎる時間に堂々と居座るほど空気の読めない男じゃないよ。頃合いになったら戻って来るから安心して」
「そ、じゃあまた後でね」
席を外すとは思ってなかったパッシオが何処かに行くみたいだから少し驚いたけど、パッシオなりに気を使ったらしい。
私は全然気にしないんだけどなぁ。他の知らない人ならともかく、パッシオ相手だったら今更だし。
ただ引き止める理由もないし、ひらひらと手を振って見送ることにする。
「……真白様ってホントによく分からないですね」
「ん?何の話?」
「……はぁ〜」
そしたら何故かグリエには盛大な溜め息を吐かれて、私ははてなしか頭に浮かばない。
美弥子さんやマーチェを見ても苦笑いするだけで誤魔化されている感じだ。どうやら、私だけが何も認識出来てないらしい。
なにかやったか、私。
「ちょっと前までは団長の方が不甲斐ないと思ってましだけど、最近は団長が気の毒になって来ましたよ私は」
「よく我慢なされているかと」
「鋼の意志を感じますよね。普通に凄いと思います」
3人だけが何かを理解しているみたいで、私は首を傾げるだけ。うーーーーん、何かしたっけかな。
何度首を捻ってもわからないのは私が相当おかしいのだろうか。……多分そうなんだろうな。




