二国間会議、開幕
「何も意地悪を言っているわけじゃないんだ。僕自身の体験談から、君に助言をしているんだよ」
訝しんでいると肩を竦められる。心外、といった反応だけれど以前会った時のことは忘れていないのでご自分のせいですからね。
「……その割には胡散臭いですが」
「君も中々容赦がないね。でも本当だと言っておくよ。変なこだわりは捨てて、一度自分に正直になった方が良い。大切なものを取りこぼしたくなかったら、ね」
正直に言うと苦笑いをされる。したいのはこちらの方だが、リアンシ様の言葉は中々痛いところを突いて来る。
本当に、真意の読めない人だ。何故僕らを気にかけるのかは分からない。けど、自分の中身を明かさないクセにこっちの内を当たり前の顔をして見透かしてくるんだから困る。
趣味が悪い人だと率直に言いたいけど、流石に不敬か。
「……そんな簡単なことじゃありません」
「それは君が難しく考えているからさ。もっとシンプルで良いんだよ。彼女はしがらみが多い。動くなら少ない君の方だ」
大体、そんな簡単な話じゃない。似たような話は他の人に散々されているけど、皆が想像する程、僕らは好き勝手して良いわけじゃない。
そう言うとリアンシ様は首を横に振った。それは違うということだろう。だが、何が違うのか。
彼女には彼女のやる事がある。やりたい事がある。それを僕が引き留めることで諦めさせるようなことがあっていいものか。
「彼女の決断の方が大事です。僕みたいな――」
「その彼女が既に雁字搦めで動けないんだとしたら、助けてやるのは君の役目じゃないのかい?きっと、彼女も心の何処かでは君の事を待っているよ」
「貴女に彼女の何がわかる」
「意地を張っても良い事が無いと言っているのさ。本音でぶつかることも大事なことだ。君達は2人揃って、少し頑固が過ぎる。本音を出して良いのさ。案外、どうとでもなるものだよ」
語気を強めると宥めるように言い返される。今のは僕が悪い。どうにも、彼女の事が絡むと頭に血が上りやすい。
わかってはいるさ。自分が意固地になっているのかも知れないのも、臆病になっているのかも知れないのも、周りに散々言われて理解はして来ている。
でも、それは僕のエゴで、彼女の為にはならないんじゃないかと思うんだ。僕は、彼女が彼女らしく、自分の道を迷わず進んで欲しい。
それが、僕が惚れ込んだ諸星 真白という人だから。
「はぁ。全く、君達の恋路の最大の敵は自分達だね。それを見せられている周りの人々の気苦労も考えた方が良い」
「……ご忠告、感謝します」
盛大なため息を吐かれて、ようやくこの人が本心で僕らの心配をしてくれていることが分かった。
なんだか申し訳の無い気分だ。不甲斐ない自分達の行動が周囲に知らず知らずのうちに迷惑をかけているのかも知れないと思わされる。
きっと、実際そうなのだろう。前から散々と発破をかけられている辺りからして僕らの関係性というのは見ていて非常にヤキモキさせられるものに違いない。
「僕だってプリムラ姉さんの娘をその辺の唐変木にくれてやるつもりはない。真白君は妻の紫の友人だしね」
「まだ婚約者では?」
「僕が捕まえた獲物を逃がすとでも?」
ツッコみを入れると想像以上にエライ返事が返って来た。紫ちゃん、ご愁傷様と言うべきか。
と言っても今のところを見るに案外上手くやっているんだよね。
凸凹ペアだと思ったけど、勝手な想像よりはずっと収まりが良かったのだと思う。
「おほん。とにかく、君なら諸手を挙げて預けられるし、信用も出来る、地位も実力も申し分ない。僕としては君以上はいないんだよ。日和ってないでさっさとプロポーズして来い」
「とうとう遠回しにすら言わなくなりましたね」
「君相手にする必要もないなと思ってね。とにかく、僕がそうだった実体験からの助言だ。さっさと覚悟を決めることだね」
最後にそう言って、リアンシ様は僕の持つお盆から勝手に料理を1つ摘まみあげるとそれを口に放り込んで立ち去って行った。
好き勝手言ってくれる人だ。だけどまぁ、僕らを心配して忠告してくれた事には感謝しないといけない。
「何か言われたの?」
「大したことじゃないさ。全く、昔から軽薄な人だよ」
「苦手でしょ」
「……正直ね」
真白のもとに戻ると、僕がリアンシ様を苦手にしていることを看破される。そんなに分かり易かったかな、と思いつつ真白との会話を楽しむことにする。
覚悟、か。確かに僕に足りないのはそこなのかも知れない。真白のことを大事にしていると言いながら、どっちつかずでいるのも彼女に失礼だし、彼女を迷わせてしまっている原因が僕自身の可能性も十分にある。
それでも、踏ん切りが中々つきそうにないのは僕がヘタレだから、なんだろうなぁ。




