二国間会議、開幕
「帝国と『災厄の魔女』の暴挙により失われたモノはあまりにも甚大だ。公国領主としての立場としては全面戦争は極力避け、ミルディース王国の復活をもって三大国のバランスを取り戻すことが先だと考えている」
ショルシエによるクーデターと帝国の侵攻によって滅んだミルディース王国の復活。それによる三大国の力のバランスを取り戻す。
軍事力、経済力などの総合的な国の力が拮抗すれば、必然的に戦争というものは起きにくい。これは人間界でも証明されていることだ。
主に核兵器という人類最強の兵器と魔獣という共通の危機によって人間界の足並みは比較的揃っている。
いや、揃えざるを得ないといった状況だ。
人間界への魔力の流入によって引き起こされた魔獣被害という危機が、人類にとって環境問題、人口問題、紛争問題のなどの非常に解決が困難な問題の解決の一助となっているのは皮肉でもあり、記憶にも新しい。
逆に魔力という潤沢で万能な資源がある事により、文化や古い時代に治めた一族が定めた国境を維持するだけで多くの人が生活出来た妖精界に、戦争という大きな問題が起きているのもまた皮肉な話に思う。
公国領主リアンシさんの言い分はもっともだ。三大国によって妖精界のバランスは均衡を保たれ、長きにわたって国家は成立していた。
それが崩壊した今、役者が揃ったこの地で再びミルディース王国の復活を宣言すれば、この旧ミルディース王国領土の安定度も増すだろう。
団結も深まる。そうなれば国力の増強にも繋がるのだが……。
「お前、まだそんな妄言を言っているのか?」
「妄言ではないさ。役者は揃っている。誰も反対はしないだろう? レジスタンスはむしろそれを目的としているハズだ。再び、この地にミルディース王国を興す。そうだろう?」
リアンシさんの言葉に真広が噛み付く。まだ、妄言、というセリフから察するにリアンシさんはかねてからこの地にミルディース王国の復活を望んでいるらしい。
言い分は決して間違っていない。間違っていないからこそ、時期尚早にも思える。国を興すのは一定の問題の解決。
ここで言えば、せめてショルシエの打倒を成してからでないと、帝国との国力差を埋めることが難しいように思う。
あの魔女がもし気まぐれに攻めて来るようなことがあったらそれこそまた国は半壊するだろう。
向こうを刺激しない意味でも私は勇み足で国を興すことは反対だ。
「否定はしないよ。レジスタンスの人員の殆どは元々ミルディース王国の軍人だし、僕自身もいずれは国を興すための一助になればと思うけど……。それは今やることじゃないかな」
「……へぇ、意外だな。君はてっきりそうあって欲しいと願う側だと思っていたんだけど」
ミルディース王国を早急に復活させるか否か。突如沸いて出て来た話にそれぞれの意見がぶつかり合う。
リアンシさんにとって、パッシオはこの中でも王国の復活に賛成してくれるだろうと考えていたようだけど、残念ながらそのアテは外れている。
彼は自分の役割をこの領土を守ることだと定めており、国を興し、政治の中枢に関わろうという意欲は無い。
自分がそういったことには不向きだと評価しているし、実際に彼はルールを多少なりとも破ってでも、守るモノを守るといった強引な手段に出ることもままある。
義理堅くて頑固な性格も政治に向いているとは言い難い。彼は誰かの下につくことでその能力をいかんなく発揮できる。
そして、その能力を引き出すのは主であり相棒である私の役割だ。
「役者は揃っていると言っても、それはリアンシ様、貴方が遠く離れた公国という場所から見聞きしただけでの判断だ。現場にいる僕としては、役者はまだまだ足りないよ。僕なんかはアテにされても困るしね」
「君は主君を立てたいとは思わないのかい? それに王から絶対の信頼を持つ騎士となれば、君自体にも箔がつく」
「それこそ興味が無いかな。僕も真白も、自分の地位ってヤツには笑っちゃうくらい興味がなくてね」
肩を竦めて言うパッシオの言葉に何人かがやれやれとため息を吐く。なんでそんなに周りが不満そうなんだ。
立場を高めたって足枷になることも多い。私はトップに立ちたいんじゃなくて、常に現場に関わっていたいの。
現地の状況を見ないで采配だなんてとてもじゃないけど怖くて出来ないわ。




