二国間会議、開幕
5分ほど抱き締めあって、どちらともなく離れる。お祖母様の目尻に溜まった涙がどれだけこの瞬間を喜んでくれているのかを物語っている。
「立派に育って……。貴女がどんなに苦しくて大変な生活を送って来たのかは真広ちゃんから聞いてるわ。よく頑張ったわね。なにより、何もしてやれなくてごめんなさい」
「いえ、私が生まれたのは様々な奇跡が重なった上です。母の事も……、割り切っていますし、両親には感謝しています。心配してくださってありがとうございます」
昔は色々あった。ホントに色々ね。その中の大半は主に父との確執と、医療に携わるための勉強と仕事に費やした。
我ながら中々ピーキーというか、偏った生活をして来たと思う。
ただし、それを苦労だとか不幸だとは思っていない。私が生まれた奇跡と私が選んだ道を誇る以外に何がある。
「私にはやることが山とあります。悩んでいる暇はないですし、一緒に歩んでくれる仲間もいます。ね?」
後ろに控えているパッシオに声をかけると珍しく予想外だったらしくて、目をぱちくりとさせてからコクリと頷いてくれた。
「あらあら頼もしいわね。グラナーデ家の問題児さんも立派な騎士ね」
「うぐっ……。ノーヒリス様、ご勘弁を」
「うふふ。貴方のお父様も喜んでいることでしょう。いつも頭を悩ませていましたからね」
「今もきっと星として僕らを見下ろしながら文句を言っているかと。小言の多い人でしたからね」
元々王家直属近衛騎士団、その副団長を務めていたパッシオはノーヒリスお祖母様とも面識がある様子。
むしろ昔から知っているからこそ、今の様子を見て弄られている。この悪戯っぽい性格は確かに私に似ている気がする。
というか、私がノーヒリスお祖母様に似ているが正しいか。
しかし、王族であるお祖母様の耳にも入っている過去のパッシオの素行の悪さはいよいよ相当なモノだとわかる。
よくそれで副団長がやれたものね。今は真面目だから良いけど。
「あまりいじめないでください。今では私の大切な相棒ですから」
「頼もしいわ。プリムラも私も先々代の国王だった主人もあまり戦うことは得意ではなかったから、民のために矢面に立って戦える貴女が少し羨ましいわ」
「私自身も戦いにはあまり向いているわけではありませんから。戦闘能力で言えば、弟の真広の方が秀でています」
「それでもよ。世界最高の障壁魔法の使い手とまで称される程の実力を伴った者がミルディース王家に何人もいないでしょう」
褒めちぎるノーヒリスお祖母様。孫に会えて相当に嬉しいらしく、そう言って貰えるのは嬉しいけど恥ずかしさもある。
「ましろー、着いたわよー」
「にゃーん」
お祖母様とそうやって話し込んでいると、聞き慣れた声が聞こえて来る。
集合時間ギリギリにやって来た朱莉とリオ君達、竜の里組だ。
こちらは王族ではない上に空から直接ここにやって来たからか、こちらに連絡が来る前に到着したようだ。
「アカリさんとリオ君、だったかしら。凄まじい魔力ね。最強と言われる戦士なだけはあるわ」
「よくご存知で」
「真広ちゃんから聞いているもの。さ、あの子とは親友なのでしょう?会議が始まる前に少し話してらっしゃい」
「すみません、失礼します」
流石は王族。情報収集と精査の能力がピカイチだ。朱莉がどんなのかをひと目でぴしゃりと言い当てている。
言うのは簡単だけど、情報を知っているからってそれが誰かを言い当てるのは至難の業だ。
ニュースで名前と経歴だけ知ってる芸能人の顔と名前が一致することなんてそうそうないでしょ?
「あー疲れた。それにしてもやたら豪華な場所でやるわよね。お城で会議だなんて。長テーブルとパイプ椅子で良くない?」
「開幕からそういうこと言わないの。王族関係者まみれなんだから仕方ないでしょ。朱莉だって、竜の里の代表扱いなんだからね」
「わかってるわよ。ただ居心地が悪いってだけ。小市民には堅苦しいわ」
言ってなさい。最強の魔法少女だからあちこちでVIP待遇でしょうよ貴女。
やって来て早々に愚痴を言う朱莉の背中を押しながら彼女を席まで誘導する。
これで会議のメンツは揃った。あとは休憩している面々を呼び戻して、いよいよ会議の始まりだ。
対帝国、そして『災厄の魔女』ショルシエに対抗するための二国間会議。その口火が切られるのだ。




