二国間会議、開幕
「随分と盛大に出迎えてくれるんだね、この街の人達は」
しばらくしたあと、スフィア公国からはるばるやって来たのはスフィア公国領主、リアンシ・イニーツィア・レイナ・スフィアさんだ。
聞いた話だと女性だと聞いていたのだけど、今目の前にいる人はどう見ても男性だ。
いや男性にしてはかなり端正というか、綺麗な顔立ちをしているから女性に見えなくもないんだけど、立ち振る舞いや声音から明らかに男性とわかる。
レイナ、という名前のひとつも女性王族に付ける冠名みたいなもので、男性だとダイナだったはず。
早速混乱する自体が起きていて何が何やら。
「他国の王家がやってくるとなれば、パレードのひとつでもするんじゃないか?俺は知らんが」
「ノーヒリス様のご帰還という意味もあると思いますよ。真白さんの実の弟である真広さん、貴方だって王族ですからね?」
「こんなに賑やかに集まったのは久しぶりだわ。昔を思い出すわねぇ」
真広、紫ちゃん、ノーヒリスお祖母様と目の前には王族関係者がズラリと並ぶ。
私もその末席に並ぶわけだけど、ここまで重要人物が首を揃えるとなると、その盛り上がりと警備の緊張感はうなぎのぼり。
幸いなのがここに集まった面子そのものがトップクラスの実力者揃いというところか。
ショルシエ達が何かしようものなら、あちらもただでは済まないだけの戦力が揃っている。
「初めまして真白ちゃん。僕はリアンシ。リアンシ・イニーツィア・ダイナ・スフィアだ。気軽にリアンシと呼んで欲しいな」
「初めましてリアンシ様。諸星 真白です。今日はよろしくお願いします」
「つれないなぁ。まぁ、真面目さんなのは聞いていたらわかってたけど」
リアンシさんと挨拶と握手を交わし、軽めの自己紹介を済ませる。
非常にひょうひょうとした人で掴みどころがないというのが初対面の印象だ。
紫ちゃんの嫌いそうなタイプだけど、彼はどうやって彼女を堕としたのだろうか。
そしてリアンシさんはやはりダイナと自己紹介した。だから男性なのは間違いないのだけど、じゃあ以前のレイナという冠名の名前はなんだったのか。
チラリとパッシオを盗み見ても僕は知らないと無言で返されてしまった。
「あー、前の名前は色々あってね。あっちの方が嘘だったんだよね」
「全く迷惑な人ですよ。おかげで色んな人に迷惑をかけてるんですから」
「しょうがないよ。紫を嫁に迎えるにはバカな真似はやめないといけなかったんだから」
「最初からバカな真似をしなければ良い話です!!」
ばちんっとリアンシさんの背中を顔を真っ赤にした紫ちゃんが平手打ちする。
あー、うん。よくわからないけど結構上手くいっているらしい。成る程ねぇ、紫ちゃんはこういうタイプの人が心配になっちゃうタイプだったか。
成る程ねぇ。
「ニヤニヤしてないでください!!そっちも早くくっ付ーーもがっ?!」
変なことを口走ろうとした紫ちゃんの口を障壁を塞いで静かにさせる。
隣にいるんだから変なこと言われたら変な空気になるでしょ。
「騒がしいな」
「年頃の子が集まればそういうものよ。貴方は混ざらないの?」
「いや、俺は別に……」
我関せずを決め込んで、遠巻きに眺めているだけだった真広はノーヒリスお祖母様にからかわれてたじたじになっている。
珍しい光景だ。流石の真広もお祖母様には弱いということか。
「ノーヒリスお祖母様」
お祖母様に挨拶をしないわけにはいかない。血の繋がりがある数少ない人だ。こうして出会えただけでも奇跡のようなものだと思う。
「長らく、ご挨拶もせずに申し訳ありませんでした。真白と言いまーー」
「そんな畏まらないで。やっと会えたわ」
挨拶をしようと声をかけるとそれを遮り、お祖母様は私のことを強く抱き締める。
涙ぐんだその声がお祖母様の気持ちの全てを物語っていると思う。
私も会えて良かった。つらつらと御託を並べないでいいのなら、子供みたいはしゃぎたいような泣き出したいような気持ちが確かにあった。




