二国間会議、開幕
昴さん達を私達の仲間に迎えて数日。最近の忙しさの原因であり、ようやく念願かなった、ってところかな。
「久しぶりだね、皆で集まるのは」
「何か月ぶりかしらね。まだ墨亜の行方が分かってないのが心配だけど」
「手紙は来たんだろう?なら大丈夫さ」
今日、ようやく私達は妖精界という地において、一堂に会する機会を得た。残念ながら何処かで修業中の千草と要ちゃん、そして今も行方の分かっていない墨亜はいないのだけれど、全員の安否はわかっている。
千草と要ちゃんは先日連絡が、墨亜からは帝国の近くにある小国からの私宛の手紙が届いている。
筆跡も間違いなく墨亜のそれだ。相変わらず中学生らしくない達筆な字を書くのは光さん譲りなところだろう。
それにしても、随分と私達を取り巻く環境が変わってしまった。いや、悪い事じゃないんだけど、集まるにしても話をするにしても何かと大事になってしまうようになってしまったのが大変なところなのよね。
「まさか紫ちゃんがスフィア公国の領主と婚約するなんてね……」
「その報せを聞いた時は流石の僕も驚いたよ。こう言っては何だけど、結婚には程遠いタイプの子だからさ」
そうなのよねぇ。あの紫ちゃんがまさか王族と婚約するなんて、何があったのやら。
脅されてとか、無理に迫られて、とかには意固地になって徹底抗戦するタイプだからそもそも恋愛にあんまり向いて無い性格というか、あんがい結構な天邪鬼なのよね。紫ちゃんって。
好意を向けられると嫌がったりとか、逆に距離を取って逃げようとすると思うのよ。恋愛そのものに苦手意識があるというか、自分に好意の感情の矢印を向けられるのがあんまり得意じゃないというか。
恥ずかしがり屋、とも言うのかしらね。恥ずかしがり過ぎて、好意を向けられると「なんで私にそんな感情を向けられるんだ気持ち悪い」くらいに考えると思う。
恋愛攻略難度で言えばSSSと言ったところかしら。好意を向けたら逃げる相手をどうやって墜としたのか、個人的に興味があるわ。
「公国領主のリアンシ様も結婚や恋愛とは程遠いタイプの人でね。ひょうきんというか、自分の腹の内を探らせないというか、紫とはむしろ相性が悪いように思うんだけどね……」
「恋愛なんて何がどうなってるかなんて本人達も分からないものよ。案外、結婚しなさそうな人が誰よりも早く結婚するなんてまぁまぁ聞く話でもあるし」
「人は見かけによらないってやつかな」
そういうことになるのかしらね。本人からしても不服な婚約だったりしてね。とりあえず碧ちゃんが弄り倒すだろうから、私は触らないでおきましょう。
「墨亜は何処で何をしているのかしらね。同伴者がいるみたいだけど……」
「男の子だったりしてね。あっちはあっちでもしかすると彼氏を連れて来るかもよ」
「……どこぞの馬の骨だったらちょっと考える必要があるわね」
対する墨亜は同伴者と一緒に旅をしながらこっちに向かっていることが手紙で連絡が来た。
旅自体は平穏に進んでおり、今のところ旧王都サンティエの街を最終地点と定めながら帝国領内から三大国外周にある小国を経由しながら公国に入り、旧ミルディース王国領土内へと入る予定だと記されている。
この辺りは具体的な旅程を示してもらえれば、紫ちゃんが手筈を整えてくれるだろう。その旨を送り返したけど、届くかどうかは少し怪しい。なにせ常に移動しているからね。
「まぁ、墨亜も警戒心が高い方だし、変なのには引っ掛かるタイプじゃないからそんなに気にしなくても良いと思うけどね。なんなら良い男を捕まえてそうだ」
「それは、確かにそうね」
墨亜には光さん譲りの人を見る目がある。墨亜が同伴を許すほどの相手ということは信用における相手と墨亜が認めたということになる。
少なくともちゃらんぽらんな輩ではないだろう。騒がしいバカは墨亜が一番毛嫌いする人種だし。
「私は私でなんかもう王様扱いなのよね……」
「仕方ないとは思うけどね。おかげで僕らレジスタンスは動きやすかったりするから、僕からは口を噤んでおこうかな」
「薄情者」
もう間もなく公国から紫ちゃん、舞ちゃん、真広、ガンテツさんにマロン君と公国に落ちたメンバーが合流する。
竜の里からは朱莉、リオ君、メルドラちゃん、ヴァン君、ゼネバ君達がやって来る。
かなりの大所帯だ。騒がしいことになるだろうけど一度は全員で情報交換と今後の作戦を会議する必要がある。
リモートでも良いけど、実際に顔を合わせるのも大事だしね。仲間としての自覚をする、結束を固めるのには実際に会う以上のモノはない。
楽しみだわ。早く来ないかしら。




