瑠璃色の慟哭
昴さん、リリアナさん、リベルタさん。そして碧お姉様とサンティエの街をひと通り練り歩いたあと、私達はレジスタンスの庁舎の1つに足を向けていました。
目的は食事。妖精である私にはおおよそ不要なものですが、人間、エルフ、鳥人を含む魔人族が4人もいるとなると食事は必須ともなります。
そもそも妖精族自体が妖精界で2割程度の種族ですから。
それでもやはり魔力のおかげで人間に比べると食事の頻度は少ないとのこと。
人間界ではなんと人間は1日に3食が基本とされているそうです。
私からすると信じられません。妖精界ではどの種族でも数日に1回程度の食事ですから。
世界が違うとこうも違うのかと思わされます。人間は不便だなと思いつつ、魔力に依存しているとも考えられ、仮に妖精界から魔力が消えるような事態となれば、この世界は1週間と持たないことでしょう。
「サフィーはなんか食べたいのあるか?」
「私は……、あまり食事には詳しくないので」
1歩後ろを歩く私に碧お姉様は気をかけていただき、声をかけてくださいました。
と言っても私は妖精。食事には疎く、レジスタンスが発足し魔法少女が合流した今でも数えられるほどしか食べ物というのを口にした経験はありません。
碧お姉様に誘われたのがその数少ない経験なのですが、私には何が美味しいと言う事なのかいまいちわからず、「美味いか?」と聞いてくれる碧お姉様に失礼のないように「美味しいです」とよくわからないのに答えるだけでした。
「やっぱ肉か?昴は牛豚鳥魚のどれが好きよ?」
「んー、やっぱり豚ですね!!沖縄と言ったら豚料理です!!ラフテーにソーキ、ミミガーは鉄板ですね!!」
「確かに。実は地元の近所に沖縄料理屋があってよ。コレが美味いんだよなぁ」
「今度沖縄を案内しますよ。観光から食事まで任せてください!!あ、もちろん皆ですよ!!」
食事の話、そして生まれ故郷の話で盛り上がっている碧お姉様達。
それがどうしても羨ましく感じてしまう自分が、どうにも惨めに思えてしまってなりません。
わかっています。誰にも悪意は無いのです。私が勝手な解釈をしているだけで、誰も悪くない。
ただ、それでも。お姉様の話についていけない自分が嫌で、お姉様の視線や意識を誰かに取られるのが嫌で。
優しい碧お姉様にずっと見ていて欲しいと、醜い独占欲が心の底にヘドロのように溜まっていく感覚が私を苛んでいる。
「料理は素人だって言う大将の作る料理ですら美味かったからなぁ。人間界から来てる料理人が作る飯がどんくらい美味いのか、今から腹が鳴るぜ」
「私も先日食べた昴の料理は衝撃だった。アレより美味いものがあるのか?」
「任せておけよ。飯の味にはうるさいのが魔法少女だからな。腕利きの料理人が来てる。あの真白も、食事の良し悪しにはうるさいんだ」
目の前の3人からはおぉ〜、と歓声が上がる。食事がそれほど楽しみなのだろう。
案内をしている碧お姉様も嬉しそうだ。
私からすると口の中によくわからない物を入れているだけなので、やはりイマイチ良さが分からない。
でも、本当なら食事とは楽しいものなのでしょう。食事が基本的に必要ない妖精でも、趣味に食事を摂る方はそれなりの数がいます。
パッシオーネ団長やカレジ副団長などもそのタイプです。彼らはさらに自分で料理をし、お酒と共に口にしているのを度々見かけます。
食事に誘う行為は、特に人間界では親睦を深めるための行為。パッシオーネ団長からはそう教わっています。
だから昴さん達を誘うのも私達の親睦を深め、親しくなるための前準備のようなもの。
人付き合いでは重要なプロセスなのは重々承知しています。
それでも、私は思ってしまうのです。
お姉様の優しさは私のものなのに、と。




