瑠璃色の慟哭
「はー、お前らも大変だな」
街をぶらつき、あちこち説明をしながら3人の身の上話ってのを話題にして、出て来た感想はそれだ。
なんつーか、揃いも揃って親とトラブってる連中ばっかだな。いやまぁウチも昔はちょっと揉めたりしてたけどよ。
両親が元ノーブルの信者で、絶賛陰謀論者となってしまって家に帰るのを諦めた上に自分のポテンシャルをコントロール出来ずにやっかまれてしまった昴。
父親が権力者で、家庭を顧みない上にその権力に溺れて行くのを見せつけられてグレたリベルタ。
里の風習に反発し、里長の娘だが父親と里全体に不満を募らせていたリリアナ。
3人とも親とか生まれながらの環境にトラブルがあった奴ばかりだ。
ウチもそのクチだし、真白もそう。あとは千草だな。
子供じゃどうしようもない周囲の環境との軋轢ってのはまぁ死ぬまで心に刺さったままの楔か呪いか。
上手く抜いたり減らしたり出来りゃ良いが、そのまま拗らせると厄介なことになる。
真白はそれで一度間違えたクチだ。なんの奇跡か、アイツはやり直しが効いたからどうにかなってる、らしい。
その辺は本人すら認識出来てないらしいからもう詳細を知るやつは誰もいねーんだけど。
「でも私は運が良いと思います。スバル達に出会えたおかげでその辺りの解決が図れそうですから。本当に感謝している」
「俺も大将がいなかったら、今頃レジスタンスに討伐されてたかもな。トゥランの街もどうなってたことやら」
リリアナとリベルタが口を揃えて言うのは昴と出会えて良かったと思っていることだ。
確かに昴との出会いがなきゃ、エルフの里もトゥランも存続が怪しいもんだ。
特にトゥランの存続が危うかったら色々とまずい事態になってたことは確定的だな。
トゥランで大きな戦闘が起こっていたのは耳にしてたけど、それがまさかコイツらとはな。
ウチらが思ってた以上に戦闘経験は濃密だったわけだ。
「やめてよ2人とも〜」
当の本人はむず痒そうにしている。あんまり自分が褒められることには慣れてないっぽいな。
まぁ、両親が両親だもんな……。陰謀論者の思考がどんなもんかなんて予想も出来ないが、あの手の手合いは身内にも自分の価値観を押し付けて来そうだ。
子供を褒める時は、自分の都合の良いように動いた時だけじゃねぇかな。想像だけどよ。
「サフィーさんはどういった経緯でレジスタンスに?」
「確かに、レジスタンスの中でも一際お若いように見える」
「え?私ですか?」
全員がひと通り話をしたところで、話はサフィーの身の上話に移る。
確かにサフィーの身の上話ってのは詳しくは聞いてねぇな。私が知ってるのは私が持っている『優しさ』のメモリー。
この中に入っている魂、テレネッツァ・ノブル・アグアマリナの実の妹ってことくらいだ。
詳しい話は実のところ聞いていない。
そこはサフィーが話したい時に聞いた方が良いと思ってたからな。
今ここで聞けるならウチとしても興味がある。
「……」
「あ、無理して話さなくても大丈夫ですよ?すみません、いきなり聞いちゃって」
「いえ、大丈夫です。あまり気分のいい話ではないと思いますが、それでいいのならですけど」
気の進まないという雰囲気をすぐに察した昴がフォローに入るが、サフィーはウチらが聞きたいのならって条件を付けて話をする意思を見せる。
サフィーからするとあまり気分のいい話ではないらしい。確かに、帝国との戦争が絡む話に必然的になるもんな。
さっきまで以上に明るい話題じゃねぇだろうよ。
「まず、私のフルネームはサフィーリア・ノブル・アグアマリナ。かつて、ミルディース王国で名だたる武将を輩出して来た名貴族と呼ばれた一族の生まれです」
そう切り出したサフィーの話にまずははぁ、と声が出る。
所謂武家、ってやつか。どおりでテレネッツァが武闘派な訳だぜ。
いくら世界の違う妖精界とは言え、腕っぷしの強い女性ってのはやっぱ少なかったからな。
妖精って魔法の得意な種族を考えても、テレネッツァは妖精では珍しい武器を操るのに長けた妖精だったらしいことをウチはこれまでの経験で知っていた。




