3組の謁見者
「良い子達だったね」
「ええ、見かたによれば理不尽なめにあってるのに何ひとつ嫌な顔もしないし。聞いていたとおりタフネスのある子ね」
ある程度の話をして、昴さん達とは一旦別れる。このあとに来る残りふた組の謁見希望者のこともあるし、しばらく彼女達にはここに滞在してもらうことになる。
本当は昴さんは早く人間界に帰してあげたいんだけどね。彼女が経験したこと、情報は私達が想像していた以上に有意義なものがある。
何より昴さん自身の洞察力が優れている。呑気な雰囲気を放っているけど、頭の回転は相当早いハズだ。
案外、どんなこともしれっとこなして見せるような器用さと要領、頭の良さを持っているだろうと私は予測していた。
「気に入ったんでしょ?昴さんのこと。全く、真白の悪い癖だね。優秀で才能のある人材を見つけるとすぐ手元に置きたがるのは」
「うっ……。だって勿体ないじゃない。環境さえ用意してあげれば、存分にその才能を振るえるのに肩身の狭い思いをしているなんて。広い世界に出してあげれば鯉は竜になるかも知れないのよ?」
「それを本人が望んでいれば、ね」
そりゃそうだ。本人が望んでいないのに無理にこっち側に引き込むほど外道じゃない。……本当に危機的状況なら、多少無理にでも引き込む可能性はあるけど、今はそこまで切羽詰まった状況でもないでしょうし。
それにやっぱり昴さんは一般人。リベルタさんもリリアナさんもだ。『思い出チェンジャー』という戦えるだけの力を得ているのは確かだけど、素人に毛が生えた程度。
まともに訓練を積んでいない彼女達はゲームで言えば、ステータスだけ強くて技を覚えていないキャラだ。
最初は強いかも知れないけど、敵が強くなればなるほどパーティーからは外れていく。
変に自分達は戦えると勘違いされてしまうのも問題だ。そういった子達ではないことは先ほどの会話でわかってはいるものの、力があるというのは無茶をしやすいとも言える。
なまじ昴さんなんかは自分が戦えば、少しだけでも持ちこたえられるとすぐに判断出来てしまう可能性が高い。
思考の回転が早くて力がある。でも技術や経験がない。というのはそういう判断ミスを誘発させるものだ。
最悪、『思い出チェンジャー』を取り上げる必要性があると思っている。
「帰してあげるのが一番よ。こんな危ないところに子供が首を突っ込む必要なんて無いわ」
「僕から見たら、君達も大概子供だけどね」
「わかってるわよ。だからこそ、どうにかするって決めたんでしょ?」
ジトっと揚げ足取りばかりをするパッシオを睨むと笑いながら、「勿論」と返って来る。今でこそ、主目的は一時的に帝国の打倒とショルシエの目論見を看破し、それを阻止することになっているけど。
私達の目的はあくまで魔法少女が戦わなくてもいい世界を作る事。より広く言えば、不要な争いによって、子供や一般市民といった、本来武器を持たなくても良い人達が戦う術を持たなくても良い世界を作る事。
争いの無い世界平和、なんて大それたことは言わない。それは人間が人間である以上、無理な理想だと私は考えているからだ。
せめて、戦うことや守ることを生業としていない人達が戦いに巻き込まれることだけは無い世界。
それはきっと実現可能だから。その第一歩が魔法少女が戦わなくていい世界なだけだ。
私の夢はきっと死ぬまで叶うことはない。
「君の理想について行くのも大変だね。次から次へと無理難題が降って来る」
「でもついて来てくれるんでしょ?」
何故なら、私の理想は次から次へと沸いて来るからだ。魔法少女が戦わなくていい世界になったら、次は紛争地帯の少年兵問題や都市部を狙った民間人を巻き込んだテロ対策、魔獣や魔物被害についてなど。
問題は山積している。そのひとつひとつをクリアして、少しでも世の中が良くなればいい。
そう考え続け、実践し続けてここに今いる。問題が無くなることは決してない。
だから、私の夢は私が死ぬその時まで叶わない。そんなバカみたいな徒労かもしれない理想に誰でも彼でも巻き込む訳にも、ね?




