3組の謁見者
【『思い出チェンジャー』というのはスバル君が持っていた『Slot Absorber』を私が独自に修理したものになります】
「妖精界に来たときに壊しちゃったのをピットお爺ちゃんが直してくれたんです」
「しかも数を増やして5個作ったんだ。おかげで俺達も戦えたし、色々とトラブルを解決出来た」
「この力には本当に感謝しています。無論、むやみやたらに振るうつもりはありません」
『思い出チェンジャー』という物について問いかけると彼女達の左手首に巻き付けてあるデジタル時計のような、あるいはウェアラブル端末のような機械だ。
まさか、『Slot Absorber』の改造品とは驚いた。改造するだけではなく量産したということはその構造と仕組みを完全に把握したという事になる。
旧ミルディース王国研究室の室長の名は伊達ではないということか。これだけの技術力を持つ研究者は人間界でもそうそうお目にかかれない。
「『Slot Absorber』の改造とは驚いた。私達には発想すら無かった」
【元の段階で完成された物でしたからね。私の技術と手元にある物では完璧な修理、再現は難しいと判断したので】
修理再現が出来ないとなれば普通は改造なんて以ての外だろう。やはりそのみちの天才というのは発想が素人とは一線を画す。
元に戻せないのであれば、自分好みに改造すればいいとはならない。少なくとも私なら別のアプローチを模索する。
成程、昴さん達が無事でいられた最大の要因は一番最初にピットさんと出会ったことなのだろう。
それが無かったら彼女達は無事ではない。その幸運を引き寄せたのも昴さんの力のひとつと捉えるべきだろう。
この短期間で仲間を数多く作ったこともね。だって異世界よ?仲間を作ることだって簡単なことじゃないわ。
私達ですら、レジスタンス団長と参謀のパッシオとカレジがいてようやくスムーズなくらいなんだから。
何の伝手も無しにそれをやれる人徳、というのが昴さんにはあるんでしょうね。
「聞けば聞くほど凄いことね。昴さん達もピットさんも貴女達の活躍と努力の話をまずは聞かせてくれる?」
ここまでの道中、さまざまな困難があったことは彼女達の言葉の端々でもわかる。
まずはその話から聞くのが良いだろう。ちょうどお茶の準備も出来たようだしね。
「久しぶりの人間界の食べ物……!!こんなに美味しかったんだ……!!」
お茶に誘うと恐る恐るといった感じで席に着いてくれた昴さん達。
彼女達の冒険の話は愉快でもあり、貴重な情報の宝庫でもあった。
それらを主に話してくれた昴さんは一般的に人間界で売っているクッキーを食べて感涙と言った感じだ。
分かるよ。こっちの世界はご飯が、ね?
私達も人間界からの物資が来るまで食事には困ったものだ。
特に魔法少女でもない昴さんは苦労しただろう。
私達魔法少女は魔力である程度は代用出来てたしね。
私とか朱莉みたいな半分人外組は特にその恩恵が強く。殆ど食事を摂らなくてもお腹は空かないくらいだ。
ただの人間の昴さんの食事事情。それは密やかに苦労だったに違いない。
「ファルベカか、容姿や魔法からすると真白達が最初に接触した妖精か?」
「恐らくは。不思議なのは私と戦った時はかなり幼稚というか、見た目相応の癇癪持ちの子供という感じだったんですけど」
「昴さん達と戦ったファルベカという妖精は理性的に思えるね。ただ戦闘能力は低そうだ」
戦闘の素人である昴さんに退けられている辺り、ファルベカというスライム状の障壁を操る小さなお姫様のような容姿の妖精は決して高い戦闘能力を持つ人物ではない。
性格や言動の印象の違いこそはあるものの、同一人物と見ていいと思う。
同時にその戦闘能力から考えるにショルシエの分身体では無さそうだ。
ショルシエの分身体は全て尾の数に応じた名前を持ち、高い戦闘能力と残虐な性格が特徴的な存在だ。
残虐性はともかく、尾の数は隠してあったし、名前も数字に関係があるようには見えない。
破壊工作などを目的とした、ショルシエの分身体とは別アプローチからの帝国からの刺客と見るべきか。




