欲に溺れた守り人
でもこれからどうするんだろう。ここでこういうのは何だけど、エルフは嫌われ者らしい。
特に街に住んでいないエルフは物凄くヘイトを買っているはずで近隣の街でエルフを受け入れてくれるような人達はいない。
かと言って、エルフ族が単独で里を維持し、守る力が無いことはさっきも言った通り。
このままでは結局滅びの道を進むことになるんだけど……。
「しかし、里を移るにもどうすれば……」
エルフの男性の1人もその疑問に行き着いたようで、心配そうに里長さんに答えを求める。
すると里長さんはその問題にも一つの解決策を考えていたようだった。
「それも考えてはある。突然里を離れ、このような大所帯で他の街を訪れてもトラブルを招くだけ。そこでだ、リリアナ」
「へ?あ、はい!!」
突然声をかけられたリリアナさんが驚いたあとに里長さんに向き直る。
里長さんは彼女に何かを託すつもりらしい。少しの間が空く緊張感のある空気に自然と皆が耳を傾けていた。
「お前にエルフの里を代表して、ミルディース王国の王都に向かって欲しい。私達の処遇をミルディース王国に委ねるんだ」
「!!」
任されたのは重要な任務だった。エルフの行く末、その全てを託されたと言ってもいい。
何処からどう切り取っても責任重大な仕事に、里長さんはリリアナさんを指名したのだ。
「この里はミルディース王国の領内にある。国に属していたわけではないが、その下に入る旨、我々の状況。それに盗賊達の処遇。あらゆる点で国の管理下に入るのが最も有効な手段だろう」
「その橋渡しを、私が?」
「あぁそうだ。大使、と言えばいいか。その役割を遂行するに私達の中で最も適任なのはお前だろう」
言いたいことはある。もうミルディース王国は無くなってしまっていることとかだけど、それを言うのは野暮。
それに国は無くなっても、今のミルディースをまとめている人達がいるハズだ。
確か、レジスタンスって人達だっけか。魔法少女達も旧王都にいるハズだし、私たちもそこに向かっている。
まずはそこにうかがいを立てるのは真っ当な手段なのは間違いなくて、それからどうするかを決める or 決めてもらうのが一番良さそうだよね。
「私達も王都を目的地にしてますから、一緒に行けます」
「最後までアテにしてしまって申し訳ないが君達2人の旅にリリアナを同伴させて欲しい」
「困った時はお互い様ってな。お偉いさんに取り付けられるように何とかやってみるさ」
その辺のアテは私が持ってるしね。帝国に『災厄の魔女』と敵対している魔法少女とレジスタンスは手を組んでるみたいだし、『花びらの魔法少女 アリウムフルール』と言えば魔法少女でも凄い発言力のある人。
レジスタンスに顔を効かせることくらいなら出来ると信じたい。最悪、番長さんの名前を使えば何とかなると思う。
人任せだけど、ツテはツテ。沢山使わせてもらおう。
「それに、お前は外に出るべき人材だろう。こんな狭い里に留まっているのはもったいない。思う存分、世界の広さを楽しんで来ると良い」
「……ありがとうございます」
最後に付け足された言葉はエルフ族の長としてではなく、お父さんとしての言葉だった。
その重みと優しさに、リリアナさんは深くお辞儀をして感謝をしている。
「さあて、残りの時間は宴の続きだ!!エルフの未来とリリアナ達の門出を存分に祝ってくれ!!」
真面目で重い話が続いたせいでしんみりとした雰囲気になってしまったところを里長さんが良い意味で壊してリセットしてくれる。
変わることは決まった。どう変わるかはこれからの周りの反応待ちな以上、今から悲観的になっても仕方ないしね。
エルフの人達もすぐガヤガヤと喋り出して、その場から各々離れて宴の続きを始めた。
なるようになれ、と割り切ってしまった方が気楽にいられるんだと思う。そうなると今の里長さんは頼りになるし、ここで待つことになるエルフ族の人達は安心出来るんだろうね。
そうやって飲んで騒いで食べた翌日。なんだかんだと準備をしていたら時間がかかってお昼になった頃。
「お世話になりました」
「それはこっちさ。怪我と病気には気を付けてほしい」
「薬草たんまりもらったからな。しばらくは健康だぜ」
「きゅいきゅい」
森の入り口で、エルフ族の人達に見送られて私達3人は旧王都に向けて出発する。
短いけど、長い時間いた気がするなぁ。エルフの里。
次会う時はもっと仲良くしたいね。
「では、行ってきます」
最後にリリアナさんが出発の挨拶をして、私達は再び旧王都への旅を始める。
リベルタさん曰く、そう遠くないらしい。旅の終わりももう少しだ。




