欲に溺れた守り人
メモリーの周りに何かが集まり、光になる。理屈は全くわからんがそれがとても強い力を持っているのは分かる。
吹き飛ばされそうな勢いを感じながらも何とかそれを耐える。その間にも巨人が腕を振るい、私とリベルタを殴り落とそうとするのだから目まぐるしい。
「まだかよ!!」
「私に言うな!!」
そろそろ限界になって来たリベルタから苦情が来るが、私の事情ではないからどうしようもない。
上空で投げられたスバルの回収にも向かわないと間に合わないだろう。
どうか頼むから、1秒でも早く終わってくれ!!
「ーー来たっ!!」
そう願って、長い時間が流れた気がする。気がするだけで多分一瞬のことだったのだとも思うが、それだけ長く切羽詰まった時間だった。
一際だけ強く瞬いて、身体が吹き飛ばされそうになっていた衝撃が収まる。
手に収まったメモリーには特徴的な尖った耳を持つ人の姿。エルフの横顔が描かれている。
「後は任せるぞ!!」
「スバルは頼む!!」
思考は挟まん。そんな暇はもう無い。始祖様の魂を収めただろうメモリーを手にした瞬間、リベルタは私を手放し、スバルの回収に向かう。
【思い出チェンジャー!!『守護者』!!】
逆に空中に放り出された私は左腕の道具にメモリーを差し込み。そこから聞こえて来た妙な声を耳にして、スバル達がどう使っていたかを思い出しながら、見よう見まねでメモリーを1回転させ。
確か、こう叫んでいたハズだ。
【皆の未来を背中に背負え!!】
「『思い出チェンジ』!!」
身体を魔力が包む。顔を覆うような半透明な仮面に、身体を覆う変わった服。
珍妙にしかやはり思わんが、こうして自分が身を包んでみると分かる。とても強い力を。
コレさえあれば、この巨人をどうにか出来るかも知れないと思う謎の自信が湧いてくる。
あぁ、出来るさ。やってやる!!
「守護の力で撥ね退ける!!『シルトメモリー』!!」
地面に降り立ち、身の丈程の盾を地面に突き立てて巨人目掛けてそう叫ぶ。
シルトメモリー、それがこの姿の私の名前だ。
「グルァ!!グルァッ!!グルァアァァっ!!」
吠える巨人が拳を振り上げ、私目掛けて連続で叩き付ける。先程までは避けるしかなかったその攻撃を私は1歩も動かず、ただ盾を構えるだけ。
「……効かんっ!!」
3発振り下ろされた拳を1歩も後ずさる事なく耐え切った私は逆に前へと足を進める。
重い盾のせいで速くは進めないが、あの巨人を相手に前に詰められる。それだけでも今の姿のパワーを感じる。
何せ地面を割る拳を3発受けてもビクともしないのだ。スバル達の使っている力がどれ程のものなのかと恐ろしくなると同時に頼もしくも思う。
これだけの力を正しく使えるだろう人物に渡っているのは良い事だろう。
逆にこの力を欲しているのはそういう人達だけじゃない。
ファルベガのような他者を蹂躙することを躊躇わないような者達に渡ることだけは避けねばならないとも強く感じる。
「何をしているの!!叩き潰しなさい!!その図体が何のためにあると思っているの!!」
「……!!グルァアァァっ!!」
ファルベガの指示に、ボケっとしていた巨人が動き出す。恐らくは自分の攻撃が効いていないことが不思議でならないのだろう。
巨体から繰り出される攻撃が強力なことはわかっているが、それがどうして効いていないのかは分かっていないのだ。
ビーストメモリー、だったか。アレはどうやら強い力を与える代わりに知性や理性というものが著しく下がるのだろう。
操るには御し易いだろうが、そうとわかればこちらのものだ。
「押し切る!!」
「ゴガアアァッ!!」
盾により攻撃をどうこう出来るのなら、真正面から勝負が出来る。
小手先の勝負が出来ないこの巨人なら、それで十分!!
突き進む私に対して、巨人は拳を振り下ろし続けるだけ。盾の防御を突破出来ない攻撃だけでは私の足は止まらない。
「木偶の坊め!!」
「させん!!」
「里長に続けー!!」
攻撃を防がれているのに、それを理解できない巨人に悪態を吐きながらファルベガが障壁を操って私の足を止めようとする。
しかし、それは隙を縫ってファルベガに近付いていた父上達によって妨害される。
決してファルベガにとっては脅威ではないだろう。だが、その一瞬の隙を作ってくれた父上達のおかげで私は生きていて初めて、魔法を撃つことが出来るだけの時間が得られた。
【必殺!!】
左腕の道具を1回転。また変な声と共に魔力が一気に高まる。
高まる魔力と感情のまま、私は腹の底から叫ぶ。
「『チャージバニッシュ』!!」
押し出した盾で拳を弾き飛ばし、盾から放たれた魔力の奔流が巨人の胸を貫く。
パキンっと割れる音が響くと巨人はその姿を崩していくのだった。




