欲に溺れた守り人
「何処だ!!何処だ!!逃げるなっ、ルミナスメモリー!!」
ファルベガはその見た目に見合った幼さのように地団太を踏むような様子で障壁で地面を叩いている。
その衝撃で地鳴りがなるのだから、相当な力だ。アレで殴られでもしたら人の身体なんてどうなるのか、想像するのも恐ろしい。
「お前か?!」
「ひぃぃぃっ!?」
「お前か!!」
「ち、ちげぇ!!誰だよソイツ!!」
障壁に飲み込まれ、いつ殺されるかもわからない状況にあった盗賊たちが問い詰められているが、彼らが知る由もなければ震えあがって首を振るだけ。
ファルベガにとっては面白くない答えしか返ってこない。舌打ちをして彼らを投げ捨てた彼女はいよいよ里へとその歩みを進めていく。
徐々に里を包囲するように進む障壁を上空から見ている私達はやはりこれといった打開策を見いだせず。それを見ている事だけしか出来ない。
「おい、貴様!!どうなっている!!何故私達が襲われているんだ!!」
「そうだぞ!!協力してやったのに、仇で返す気か!!」
「お前達があの化け物を連れて来たんだろう!!どうにかしろ!!」
そんな危機的状況の中で、あろうことか口論をしている愚か者達の姿があった。
スバル達に大して好き勝手に言っていた連中が盗賊達に詰め寄っていた。
これは一体、どういうことなのか。
「俺らが知るかよ!!俺らはお前らマヌケなエルフに物を恵んでやっただけだ。そしたらお前らがペラペラと自分達の事情を話しただけだろ!!」
「里の内情を話せと言ったのはお前らだろう!!」
「俺らだって頼まれてただけだ!!大したことねぇ、クソみてえな話しかしねぇくせに見返りばかり求めやがって!!」
「何だと!!」
醜い、なんて醜いのか。
恐らく、里で自分勝手な物言いを繰り返していた一部のエルフ達は盗賊達から横流しされた盗品を集めていたのだろう。
それが何なのかは今は知る必要も無いが、里の内情を盗賊達に伝えていたのはやはり奴らだったと言うわけだ。
奴らは自分達の欲を満たし、横暴に振る舞うためだけに里の内情を流していた。それが有益な内容だったかは疑問だが、盗賊達の言葉から察するに大したものはなかったようだ。
だが、里に対する裏切り行為であることは間違いないし、その結果がここ最近のトラブルに直結していたに違いない。
例えば、里周辺の巡回時間や順路を知っていれば、誰もいない場所と時間を見計らって魔物をけしかけることだって出来る。
先日の事件はそういうことじゃないか?
掴み合いに発展している盗賊とエルフの言い合い。本当に、本当に醜い。
まるで縄張りや餌場の取り合いをしている獣のような身勝手さ。
「……うるさい愚図どもね。アンタ達の下らない争いを見ていたら、興醒めして来たわ」
それを見て愕然としていたのは、どうやら私達だけではないらしい。
先程まであれだけ怒りに身を任せていたファルベガが冷静さを取り戻していた。
その奇妙ささえ感じる二面性にも似た切り替えの速さは癇癪持ちの子供っぽさのようなものも感じる。
彼女もまた、自分の欲と感情だけで周りを振り回す厄介者なのだろう。
「そんなに争いたいのなら、手伝ってあげる。個々の獣性は低くても、それだけ数がいれば多少はマシでしょ」
「……やべーぞ大将!!」
「ビーストメモリー!!」
ファルベガが懐から何かを取り出すと、リベルタとスバルが声を上げる。
危機感を更に募らせる緊張した声音。ビーストメモリーと呼ばれるそれをファルベガは手に持ち。
「その獣性、解放なさい」
【巨人】
言い争い続ける者達目掛けて、ビーストメモリーと呼ばれた小さな板のような物を投げ付ける。
それらが身体に突き刺さった者達は一瞬もがき、苦しんだような様子を見せた後、その身体が捻じ曲がり1つの巨大な肉塊へと姿を変えた。
「ひぃぃぃっ!?!!」
「に、逃げろぉぉっ!!化け物が生まれるぞ!!」
目の前でそれを見たエルフや盗賊達は悲鳴を上げ、その場で腰を抜かすか逃げるために駆け出していた。
特に盗賊はこの状況を知っているらしく、逃げるように周囲に喚き散らしながら駆け出している。
「さぁ、暴れ回って里をぶち壊しなさい。そうすれば、ルミナスメモリーもエルフの始祖の魂も姿を見せるはず。さぁ、私の望みを叶えるために破壊の限りを尽くしなさい!!」
「ガァァァァァァッ!!!!」
そして、その肉塊が巨大な肉体を持った人の姿へと変貌し、里目掛けて拳を振り下ろしていた。




