欲に溺れた守り人
「2人とも大丈夫か?!」
殆ど落ちる形で地面に着地した2人は少なくとも意識はあるようだ。着地の瞬間、リベルタが身体を張ったらしく外傷らしい外傷は彼のみでスバルは平気そうだった。
逆にスバルは体力を消耗しているのか、酷く怠そうにしている。何にせよ2人とも戦うには既にコンディションが悪い状態だ。
「いつつ……、流石に無茶苦茶し過ぎたぜ」
「いやー、私の方も魔力切れで」
怪我に魔力切れ、やはり戦える状態ではないだろう。むしろ、こうなるまで戦ってくれたことに感謝しなくては。
エルフの里の事はやはり自分達で解決しろという天からの思し召し、という奴だと思う。危機はすぐ目の前に迫っている。森の木々がなぎ倒される音が徐々に近づいてきているのが聞こえるしな。
「敵はどんなやつなんだ?」
「ファルベガっていう奴。スライムみたいな変な障壁魔法を使うよ」
「大将がやり合ってたんだが相手がブチギレて手が付けられなくなってな」
何したんだよ?とリベルタが問いかけるがスバルは気まずそうに笑って誤魔化すだけだ。何か事情があるのだろうか?聞きたいところではあるが、今はそういうことに首を突っ込んでる場合じゃない。
頼みの綱のスバルは魔力切れで戦える状態じゃない。リベルタの話を噛み砕けば、そのファルベガという者に対抗できるだけの力を持っているのはスバルだけの様だ。
「リベルタ、何処までやれる?」
「正直自信はねぇな。何度も言ってるが、俺は戦うための訓練を受けたわけじゃねぇ。大将みたいにバンバン魔法を撃てねぇ以上、蹴るか殴るかくらいなんだが……」
「あのスライム状の障壁はとにかく衝撃に強いんだよね」
「成程、リベルタでは相性の問題も大きいのか」
魔力に頼って戦うスバルと身体能力に頼るリベルタとで役割分担をしていたが、それがまともに機能しない相手というわけだな。
スライム状、か。あの魔物に近いというのなら確かに打撃や斬撃と言った物理攻撃はさぞかし相性が悪いだろう。
エルフの里でもあの魔物が出た時の対処法と言えば逃げるか罠に嵌めて火で炙り殺すのが定番だ。
真正面から戦っても飲み込まれて窒息させられる。そうなったら連中のご飯だ。あのスライムという魔物は見た目以上に凶悪で恐ろしいというのを私達は経験則で知っている。
それに似た障壁魔法となるとそれ以上に厄介なんだろう。
「――来たぞ!!」
「クソっ、もう追いついて来やがったのか。だいぶ距離を離したと思ったんだけどよ」
バキバキと音を立て、半透明のスライムのような障壁魔法が迫って来る。術者の姿は見えない。でたらめに広がっていく障壁魔法はスバル達の事を探しながら四方八方に広がっているのかも知れない。
「全員下がれ!!捕まればどうなるか分からないぞ!!」
森の木々をへし折りながら進むような膂力を持つ障壁魔法だ。かなりの力を持つ以上、捕まればただでは済まない。
私の声や気配を察知したのか、比較的ゆっくりだった障壁の動きは急に機敏になり、声を発した私の元へと殺到していく。
「くっ!!」
持っていた弓で対応するが、当然のように対処しきれない。走りながら後退していくが、このままではいずれ捕まるし、里の中にまで障壁が侵入してしまうだろう。
そうなっては意味が無い。ここで止めなければ。
「ひぃぃぃっ!!」
「だ、誰か助けてくれぇ!?」
後退しながら盗賊たちが障壁に飲み込まれていく悲鳴が聞こえて来る。リベルタに連れて来られ、私達に武装解除され、縄で縛られていた彼らには逃げる術が無い。
助けてやりたいところだが、そんな余裕はない。周囲で見張っていたエルフ達は既に散り散りになって逃げている。今この場に残っているのは里を守ろうという気骨のある者達ばかりで、大半の者達は武器を捨てて逃げ出してしまっていた。
「役立たず共め……!!」
「悪態ついてる場合じゃねぇぞ!!」
「掴まって!!」
情けない男たちに文句を言っていると飛ぶリベルタに抱えられたスバルが手を伸ばして来る。
その手を掴み、宙へと舞い上がると追うように私の元に障壁が集まっている。
「狙いは私か?!」
「ううん、多分私!!」
執拗に追いかけまわされるとは、スバルは敵に何をしたんだ。だが、おかげで障壁の大半は私達を追って来ており、残っていたエルフ達は助かっている。
何人かは捕らえられていたが、解放されているのも伺える。それを見て私はホッと息を吐いた。




