欲に溺れた守り人
森の中、光と半透明のスライム状の障壁の攻防は続いていた。
「!!」
「ーーッ!!」
襲いかかって来る障壁。形が常に変わるし、衝撃にはとにかく強い。
中途半端な威力じゃ全部飲み込まれる。
とは言っても全部全力でやってたらすぐに魔力が切れちゃう。
求められるのは効率。障壁に阻まれずに魔力を消耗し過ぎない絶妙なライン。
木の枝から枝に飛び移る時と同じだ。少な過ぎても多過ぎてもダメ。最適な魔力量をコントロールして、確実にやる!!
引き金を引いて至近距離まで迫っていた障壁を吹き飛ばす。飛び散ってただの魔力に霧散してキラキラと輝く中、空いた障壁の穴に飛び込む。
ファルベガもすぐ障壁で私を捕えるためにその穴をすぐに埋めようと操作する。
スライムみたいなだけあって、そういうのの再生力は早い。すぐに埋まりかける穴を抜けるには一歩届かないだろう。
「はっ!!」
「……っ?!なんて無茶苦茶な!!」
だったら届かせれば良い。私は咄嗟に振り向いて銃口を既に通り埋まってしまった穴に向ける。
撃つのは暴発レベルのレーザー弾。障壁ごと吹き飛ばしながら反動に耐えられずに空中へと吹き飛ばされた私だけど、これで捕まる事はない。
妙に頭の中は冴えている。魔法のアイデアが次々に浮かんで来て、それを実行するための手段が手に取るようにわかる。
まるで、リュミーが私に魔法を教えてくれているみたいだと思いながら、また引き金を引く。
これは攻撃するための弾丸じゃない。放たれた弾丸が空中にポールのように伸びて行って、私は足元に光の板を作った。
イメージはスケートボード。横倒しのポールの上に板をスライドさせるみたいにして、空中をハイスピードで移動するための手段。
まさか昔の経験が生きるなんてね。一時期、那覇の路地裏にある溜まり場でたむろしてた頃にやってたスケートボード遊びが役立つなんて、本当にわからないよ。
リュミーに出会う前、『不良ごっこ』をやってた頃が懐かしいよ。
もう随分前のことに思えることを思い出しながら、光の板を操って光のポールを下って行く。
ポールと板が擦れる音を聞きながら、ポールを操ってジャンプ。空中で躊躇いなく引き金を引いて光の弾丸を撃ち込んで行く。
反動で身体の位置が上下入れ替わってもお構いなし。多少のミスは魔法で誤魔化せる。
「ぐっ?!」
トリッキーな動きにファルベガはついて行けてない。私の撃った弾丸がいよいよ彼女を捉え始めて来ていた。
戦いが始まった時にはお互いに一撃も有効打が入らなかったけど、今は私の攻撃を捌き切れなくなってきて腕や足にかすり傷が出来初め、魔法操作のスピードが最初の頃よりも徐々に遅くなっていってる。
集中力とか私から受けたダメージとか、色々あるんだろうけどダメージを受けずに戦い方を先鋭化させていく私とは真逆の状況なのかなって思う。
「こんな短時間でっ、どうやってこれだけの魔法を……!!」
「知らないよ。魔法は発想でしょ?思い付いた方法をそのまま魔法にしてるだけ」
「簡単に言ってくれるじゃない。それがどれだけ難しいことかわかってる?」
そんなに難しいことかな?だってすごく簡単だよ。リュミーが教えてくれている部分もあるんだろうけど、自分のイメージ通りに身体を動かして行けば良いだけだし。
「やることやってれば出来るよ」
「……ふふっ、ああそういうこと」
思ったことを口にした時、あっと思った。経験則から言って、これは多くの人から反感を買う言葉だったからだ。
友達だと思っていた人達にこれを言うだけで、友達だと思っていた人達からの視線は友愛から僻みと妬みに変わっていったのを私はよく覚えている。
「さてはアンタ友達いないでしょ?善人ぶって、自分の才能を基準に考えてナチュラルに人を見下すタイプ。そう言われたことない?」
「……」
悪口を言ってくるファルベガに私は口を噤む。その言葉には心当たりが幾つかあるのは確かだった。
ファルベガの言う通り、実のところ私は殆ど友達がいたことが無い。陰謀論者の親のせいっていうのもあるけど、半分は自分のせいな部分があるってことも知ってる。
だから、ある程度の年になってからは取り繕うようにした。いつでもヘラヘラと笑っているだけのピエロ。それが今の私、新城 昴だ。
「人の心も分からないんでしょう?凡人が何を苦しんでいるのかも分からないんでしょう?」
「……」
「自分はこんなに簡単に出来るのに、なんでこの人達はこんな簡単なことを難しそうにしているんだろう?って真顔で言うタイプでしょう?そんな奴の理想論に付き合わされる凡人の惨めな気持ちなんて一つも考えたことがない、貴女はそういう人なんでしょうねルミナスメモリー」
思い当たりしかない。幼稚園から中学くらいまでちょっと仲良くなれたなと思ってた人達から口々に言われ続けて来た言葉だ。
出来たと言ったらやっかまれ、疎まれて、妬まれた。天才には分からないでしょうけど、なんて嫌味は何回言われたか分からない。
だから自分に蓋をした。だからずっと1人だった。
親からは1番を取っても褒められるどころか見向きもされない。嘘か本当かも分からないような眉唾のバカらしい話に日々踊らされているのを見せ付けられ。
学校に行けば先生にも生徒にも疎まれ妬まれ蔑まれ、教室で1人ぼうっとしているだけ。
だから、高校に上がった時にお婆ちゃんの家に転がり込んだ。私の事をよく知らない別の地区の人達となら仮面を被ってさえいれば誤魔化せるから。
それが、新城 昴という人間の本当の姿なのだ。




