欲に溺れた守り人
「エルフ族の始祖の魂が里に留まってる、ねぇ。なんとも信じられねぇ話だけどな」
夕方、日が暮れてから私達はリリアナさんの家に戻って来て何かあったか情報交換をしていた。
残念ながら、私とリベルタさんは特に何かを見つけられなかった。
怪しいと思っていた盗賊に関係しそうなものも1つも見つける事が出来なかったのは残念だけど、根気よく行くしかないなぁ。
内通者を使って情報を集めるくらいだし、相手も相当慎重派。
普段から人目にはかなり敏感に動いてるに違いない。
「だが、それくらいしか貴重なモノなんてこの里には無い」
「だけどよぉ、魂なんてとって何すんだよ?魂だけじゃ何も出来ないんだぜ?」
「それは私に聞かれても困る。外の技術なんてからっきしなのだから」
魂、なんて抽象的なものがあるかもしれないと言われてもピンと来ないのは当たり前。
せめてもの話として話してくれたリリアナさんと、それを訝しむリベルタさんという構図だったけど、私はその魂というモノに関して、1つの心当たりがあった。
「……メモリー」
「ん?どうしたスバル?」
「メモリーがどうかしたか大将?特に何とも無さそうだけどよ」
正座でいる私は自分の太ももに手を乗せながら、その手に握る『光』のメモリーをジッと眺める。
メモリーは魂を保管するための物。私が持っている『光』のメモリーには私の親友であり妖精のリュミーの魂が入っている。
リベルタさんが持つ『兄弟』のメモリーにもリベルタさんの舎弟って言えば良いのかな?
いわゆる弟分にあたる人達の魂が入っているんだと思う。
この世界では魂の存在は証明というか、当たり前に認知されていることであって、私達人間界みたいにスピリチュアルな。眉唾な話ではない。
魔力と魂はとても深い関係にあるのは私でもわかるくらいシンプルで分かりやすい関係。
「もし、さ。エルフの始祖様の魂があるんだとしたら、狙われてるのは本当かもしれないよ」
「なに?」
「これ、メモリーって言うの。これの中には私の親友の魂が入ってる。それが私に力を貸してくれるんだ」
「こんな小さな物の中にか?」
驚いたように目を見開くリリアナさんに私は静かに頷く。でもそれ以上に私の心の中は不安でいっぱいになっていた。
もしエルフの始祖様の魂が里に留まってることが事実だとしたら。それが狙われる理由に十分なり得ることを私は思い至った。
メモリーは魂の保管庫。リュミーみたいに、私のことを気にして天に昇らない選択肢をとった妖精は現実として存在している。
多分、魂が世界に留まること自体は不可能なことじゃない。だとしたら、魂は狙われる。だってメモリーの技術を持っているのは私達。『魔法少女協会』だけじゃないんだから。
このメモリーから魔力を引き出して、戦う力にする技術を開発したのは、『災厄の魔女』ショルシエ。私達の敵だ。
私が妖精界に来るきっかけを作ってくれたあの番長さんが言ってた。帝国とショルシエって人に関わる敵が目の前に現れた時は絶対に逃げろって。
「……スバル?どうした、顔色が悪いぞ」
「大将?」
それが意味するのは、私達みたいな素人に毛が生えた人じゃあ歯が立たないような人物がエルフの里にやって来ている可能性があるってこと。
わかってる。もう散々首を突っ込んだ後にビビッてるなんてそんな情けないことは無い。でも、あの番長さんにそう言わせるような敵が、それに直接関わる人物が近くにいるかも知れないと冷静になって考えたら途端に怖くなってしまった。
「もしかしたら、私達じゃあ手に負えない敵がすぐ近くまで来てるかもしれない」
弱音を吐く私に2人は見るからに困った表情でどう言葉をかけようか悩んでいるようで。漠然とした恐怖に私はただ俯くばかりだった。




