欲に溺れた守り人
チナとピット殿が得た話によれば、里に危害を加えようとしている者達の目的は里にある『何か』のようだ。
その『何か』が分かればせめてそれを隠したり守ったりすることで対応することが出来るだろう。
少なくとも何も分かっていない今よりはずっとずっとやり易くなるはずだ。エルフにとって、それが既に無用な物だとしたら、それを譲ることで平和的解決策をとることも出来るだろう。
まぁこれは相手が最初から平和的手段を用いていない時点で望みの薄いものではあるのだが。
「エルフの里に他種族から狙われるような貴重な品などはあったりするのでしょうか?」
「貴重な品?」
「はい。どうやら、相手はエルフの里から何かを奪いたいようなのです。わざわざ内通者を通じて情報を得ているのも、欲しい何かが何処にあるのかなどを知る手がかりを得るためでは、と考えているのですが……」
私ではエルフの里に貴重な物など皆目見当がつかない。魔法という技術を捨て、不変を選んだエルフという種族に誰かが羨むような物が残せているとは到底思えないのだが、流石に卑屈が過ぎるだろうか。
スバル達に出会ってからと言うもの、エルフという生き物がどれだけ世界から置いてけぼりにされているのか身に染みるのだ。
「エルフの里にある貴重な物、か……。特に思い浮かばないというのが正直な話だ。他種族にとって価値があるような物が里にあるとは聞いたことがない」
「そうですか。ではやはり、何かもっと別の目的が……」
「だが、言い伝えならある。代々里長に伝わっているおとぎ話のようなものだ」
奪われるような物は思いつかないという父上の話を聞いて、私は肩を竦め、ピット殿の聞き違いか何かなんだろうかと思ったところに、父上から別の方向からの話が来た。
奪われるような物ではない、里長に語り継がれているおとぎ話のようなものだと父上は言うがそれを聞いてみる価値は今はありそうだった。
「本来ならば次代の里長に聞かせるものだが、どうせ長を継ぐのはお前だろう。なら遅かれ早かれの話だ、問題はあるまい」
「ありがとうございます」
本当であるなら私が里長を継いでから聞ける話らしいが、今回の事情を鑑みて話をしてくれるらしい。
いいのだろうか?とも思うが、今はとにかく情報が欲しい。
聞けるなら聞いてみよう。
「どのような話なんですか?」
「まずこの世界において、死者の魂は天に昇る」
「はい。先人の英雄達は皆天から私達を見守り、道を示してくれているものです」
「そうだ。それはエルフも変わらん、が。1人だけその摂理から外れた者がいると言う」
摂理から外れた者?そんな人物がいるのか?
死んだら魂が天に昇り、地上に残った子孫達を見守り祝福してくれているのが先人達だ。
私達はその加護により、魔法に属性を得たり、何らかの才気を授かったりしているのだと言う。
そんな世界のルールから外れるなんて、そのような外法が果たして許されるのだろうか?
私には到底思えない。世界のルールに背くということは、神に逆らうことと同義だろう。
私には恐ろしくてとてもじゃないが出来ない。だが、父上はそれをした者がいるのだと言う。
「一体、いつ誰がそのようなことを……?」
「エルフの始祖、『シルヴァ・ゼシター』様だ。彼女は何らかの方法を以てして、魂をこの里に留めているらしい」
「始祖様が里に?!」
度肝を抜くどころの話ではないモノが飛び出して来て、思わず大声が出てしまう。
それくらい驚きの事実だ。
いや、事実かどうかはわからないというのが本当なのだが、それが事実だとしたら私達の歴史観はガラリと変わるのでは無いだろうか。
「始祖様は天に昇り、魔力を神に還している役割を担っておられるのではないのですか?!」
私達エルフの始祖『シルヴァ・ゼシター』様は天に昇ったあと、神の側近となって仕えているというのが私達が真っ先に親から教わることなのだから。




