エルフの里
「この度は感謝する」
魔物を倒したあと、私達は里長さんのお屋敷に招かれていた。
座るや否や深々と頭を下げる里長さんに少しの間驚いてきょとんとしてしまったけど、いやいやそんなことはないと慌てて頭を上げてもらう。
「まだまだ未熟で、私達だけじゃどうにもなりませんでしたから」
「だがそのおかげで助かった。私達だけでは多数の死傷者が出ただろう。君達の勇気には感謝しなければならない」
私達は押さえ込むのにやっとで、倒すには里長さんの手助けが必要だった。
半人前が首を突っ込むのは迷惑をかけることも多いのに、それでも里長さんは私達がしたことを褒めてくれた。
口下手だけど、ちゃんと言うことは言ってくれる人なんだなぁと思う。
あ、じゃなかったらリリアナさんはもっと捻くれてるか。
「里長としてこれまでの非礼も詫びよう。私個人の感情で言えば、君達のことをすぐに返しても良かったのだが、里の者たちはそれでは納得しなくてな」
「それは仕方ねぇよ。長には長の事情ってのがあるもんだろ」
「皆さんの気持ちも汲まないといけないですし」
どうやら、里長さんは私達他種族に対してそんなに悪感情は無いみたいだ。
リリアナさんもそうみたいだったし、やっぱり親子なんだなぁと思う。
私達は里長としての決定に理解を示し、結果的には魔物に対処出来たことを喜ぶべきだと思う。
「迷惑をかける。しかし、コレで里の者達の外界や他種族の印象も少しは変わろう」
「だと良いけどな」
これでエルフ全体の他種族への偏見の目が変わるキッカケになるのなら、それはそれで良いことだと思う。
リリアナさんみたいな若い人が外に興味を持ってくれれば尚更、なのかな?
あ、でもそれだとエルフの里の存続に関わるのかな?でもエルフは長生きだしなぁ。
将来的に里に帰ってくるのならそれでも良いような気もする。
「そのうえでお願いしたいことがある。もうしばらく里に滞在していただけないだろうか?」
「んぁ?どういうことだよ」
「既に魔物から里を守ってくれた功績を考えれば、里から出ることにそこまで否定的な意見は出ないだろう。だが、他種族との数少ない交流のチャンスでもある」
ふむふむ。私達を里に拘束していたのは、私達がエルフに対して悪意があるだろうという前提が彼らにあるから。
でもこうして里を守ったのだから、その前提は覆ったと考えていい。だから里を出すことに問題はないように見えたけど、里長さん的には別の意図が出て来たみたいだ。
「エルフは今までのことで他種族から嫌悪されている。友好的に接してくれる者達は貴重だ」
「いや、そこを止めんのが里長じゃねぇのかよ」
「そもそも私は他種族を捕えろなどと一つも指示していない。アレは一部の過激な者達が勝手にやっていることなのだ」
あー、里長さんとしては別に他種族と喧嘩をしたいわけじゃないんだ。
そりゃそうか。メリット無いもんね。仲良くしてた方が色んなメリットがあるのに、それを勝手に壊されちゃ里長さん的には頭を抱える事態だったのかも。
里長さん、口下手だしね。
「迷惑をかけるのを承知の上で、今しばらく滞在を頼みたい。このままではエルフは滅びる」
「同じことをリリアナさんも気にしていました」
「そうか」
親子揃って同じことを懸念していた。里長と長の娘というのもあるんだろうけど、それを伝えると里長さんは少し嬉しそうにしていた。
伝えずとも成長してくれているリリアナさんが誇らしいのかもね。良いなぁ、憧れるよそういう関係。
「父上、魔物の処理がひと通り目処が付きました」
「わかった。解体と調査も忘れるな。私も見たことがない魔物だ。何処から来たか調べる必要がある」
「わかりました」
魔物を倒した場所に残って、魔物の死体の処理を指揮していたリリアナさんが戻って来る。
魔物がどうしてここに来たのかも調べないとね。また同じようなことがあったら大変だもん。




