メモリースターズ
「ブルルァッ!!」
「ぬぅんっ!!」
魔物が口から伸びた牙を振り回しながら身体にへばりつこうとするブラザーメモリーを牽制する。
私達は暴走列車のように走り回り、手が付けられない魔物の動きをある程度封じることに成功していた。
方法は単純。魔物に加速するだけの距離を与えないこと。
あの猪と象を足したような魔物の1番厄介だったのは、大木もへし折る突進能力。
そのくせ身体も頑丈で、脳震盪みたいなことになっている様子もないし、機動力も高いから下手に地面に降りればずっと追いかけ回されるハメになる。
だからまず、魔獣を止めることにした。
レーザーで牽制して、木にぶつけさせてすぐにブラザーメモリーが空中から飛び蹴りを叩き込んで転倒させた。
後はそのままブラザーメモリーには接近戦に務めてもらう。こうすれば魔物は加速するだけの余裕を与えてもらえないって寸法だ。
「このっ、暴れんじゃねぇ!!」
「ぶもぉぉぉっ!!!!」
あとは動きを止めて倒すだけ、なんだけど魔物もバカじゃない。
動きを抑えようと近付くブラザーメモリーに対して、軽やかにステップを踏んで身体を振り回す。
巨体なだけあって、それだけでこっちからすれば近付くだけで危険な攻撃になる。
ブンブンと牙を振り回して、後ろに来たら今度は後ろ脚で蹴り上げられそうになる。
いくら私たちが変身してるからってあんなのくらったら一撃で気絶させられちゃうよ。
「これ、どうしようかなぁ……」
私はと言えば、武器の銃を構えてはいるんだけどブラザーメモリーが魔物と一緒に一進一退の攻防を繰り広げてしまっているため、トリガーを引くことが出来ないでいた。
誤射したらそれだけでピンチだ。私には入れ替わり立ち替わりで動き回るブラザーメモリーと魔物を正確に撃ち抜く技術は無いよ。
こういう時に、自分はやっぱり素人だなぁと思う。魔法少女なら、例えば『綺羅星の魔法少女 ノワールエトワール』なら何の迷いもなくトリガーを引いて、少しのズレもなく撃ち抜いて見せるだろうなぁ。
なんとなく情けなくなって来て、後ろ向きな思考になったけど、それをぶんぶんと頭を振って切り替える。
今は魔法少女のこと考えたってしょうがない。今ここにいるのは私なんだから。
「スバル!!」
「リリアナさん?!」
息を大きく吸い込んでしっかりと銃を構え直すとエルフの里に戻ったはずのリリアナさんが戻って来た。
その後ろにはリリアナさんのお父さんでもある里長さんがその身体に見合った大きな弓を肩に担いでいた。
大きさだけで見ると1mは余裕で超えてる。なんだっけ、弩弓っていうんだっけ?詳しくないから知らないんだけどさ。
「手伝いに来た」
「え?」
「手伝う。指示をくれ」
そんな里長さんが突然やって来て、突然指示をしろって言って来るものだから、思わず聞き返してしまった。
びっくりしたけど、えっと、きっと何をして欲しいのか教えてくれってことだよね。
して欲しい事と言えば単純。あの魔物の動きを一瞬で良いから止めて欲しい。それだけで私はトリガーを引ける。
「わかった」
そのことを伝えると里長さんは大きな身体でこれまた大きな弓を引き絞る。筋肉ムキムキな肉体を全身隈なく使って構えるだけで、弓からはメキメキメキっと音が鳴る。
どれだけ強いテンションがかかっているのかはそれだけで分かる。そこから放たれる矢は凄まじい勢いで放たれるハズだ。
「ふんっ!!」
ズドンッと弓から出たとは思えない音を立てて、矢は放たれる。それは的確に魔物の後ろ太ももを貫いた。
太ももを貫かれた魔獣は驚いたように一瞬動きを止めた後、痛みからか雄叫びをあげて仰け反る。
それをブラザーメモリーがすぐに抑え込む。絶好の機会、逃すわけにいかないそれを私は躊躇なくトリガーを引くことで応えて見せた。
【必殺!!】
「『ルミナスシュート』ッ!!」
必殺の威力を込めた光の弾丸が魔物の魔力の防護膜をぶち抜いて、炸裂。こうして無事に魔物は倒されたのだった。




