エルフの里
エルフの里の現状と他種族との軋轢の理由を聞き終わった後、リリアナさんは私達に今日のところはここから動かないようにとひと言告げて私達を置いて何処かに行ってしまった。
「しっかし、厄介なことに巻き込まれたぜ」
「だねぇ。もうそんなにしないくらいの位置だったんでしょ?旧王都」
リリアナさんが何とかしてくれたおかげで今のまだ自由のある状態。これに泥を塗るわけにはいかないから、私とリベルタさんは言われた通りにこの部屋で大人しくするしかない。
幸い、荷物を取り上げられたりすることも無かったのがラッキーだ。
と言っても、私の荷物は自分の分の食料と水。着替えくらいで、キャンプ道具なんかの重い物はリベルタさんが持っていた。
「何だよなぁ。あと2日もありゃ着いてる距離だったと思うんだが」
「こればっかりは運だよねぇ。あそこで戦っても無事でいられたかはわからないし」
残念なことと言えば、もう少しで旧王都に着くところだったこと。
盗賊に追われ、エルフの里に捕まってなければ今頃旧王都の姿が見える辺りまで来れてたんじゃないかな。
私の主目的である、諸星 真白さん。『花びらの魔法少女 アリウムフルール』さんに渡す12枚のメモリー。
それを達成するためには絶対に向かうべきである旧ミルディース王国の王都。
そこに辿り着く一歩手前だったのに、トラブルで足止めになってしまうなんて、ツイてないなぁと流石に思うよね。
「何処まで行っても俺らは素人だからなぁ」
「間違って酷い怪我とかさせたくないしねぇ」
盗賊に追われた時、やり返せばよかったのかなとも思うけど、私達は力を借りて戦えるようになるだけで、その道のプロじゃない。
素人がそれっぽく戦ってるだけ。そんなのが振るう力を他人に向けたら、怪我させたり、最悪殺したりしちゃうかも。
盗賊相手にそんな悠長なと思われるかもだけど、私は何より人を傷付けるのは怖いことだと思う。
それは本当に最後の最後に使う手段。だからあの時は逃げたんだけど、最適解はどうだったんだろうなぁ。
「ぐずぐず言ったってしょうがねぇ。しばらくの間はエルフの里にいるしかねぇな」
「1週間くらいで出してくれないかなぁ」
「エルフは長生きだからなぁ……。下手すると数年単位で出れないかもな」
「あー、私達と時間の感じ方が違うってやつだ」
妖精界でも屈指の寿命を持つエルフからしたら、私達の1年が1週間くらいの感覚でもおかしくない。
しかも自然に囲まれて過ごしているのなら、時間の流れはゆっくりだと思う。
私、沖縄育ちだからイヤでもわかるよ。都会の忙しなさが無い田舎の時間経過ってめちゃくちゃ長いんだよね。
あれなんでなんだろうなぁ。不思議だよね。
「脱走も視野にいれて考えるしかねぇだろうなぁ。変身すりゃなんとかなりはするハズだ」
「でも、出来れば避けてあげたいなぁ。リリアナさんのことを考えるとさ」
「まぁな。エルフの割に嫌味の少ない奴だったし、助けてもらった恩を仇で返すのはな……」
顔は立ててあげたいよね。見ず知らずの私達を擁護してくれたおかげが今なわけだしさ。
里からの脱走も考える必要はあるけど、それは最終手段だよね。
2人でどうしようかなぁと頭を悩ませても答えは出ない。今はとにかく余計なことには手を出さずに大人しくしておくくらいしか出来ることがない。
せめて私達が率先して動けたら良かったんだけど、そんな虫のいい話もそう無いわけで。
「全部が丸く収まるようなことでもあれは良いのに」
「そんなんあっても俺らじゃ持て余すだけだぜ」
「それもそう」
せめて私達にとって都合のいい事態がこれから起こるのをお祈りするくらいだよね。
神様仏様〜、どうにかして早く旧王都に着けますように〜。




