怠惰な領主
結局休憩という名のサボりに突き合わされることになった私は、リアンシと向かい合ってソファーに座り、お茶とお茶菓子に舌鼓を打ちます。
これが美味しいのがまた腹立たしいですんよね。公国の領主、妖精界にいる3つの大きな力を持った王族の者が食べる最高級のものだというのは嫌でもわかります。
「進捗はどう?順調?」
「万事順調、とはいきませんが概ね問題ない程度には。轟きの遺跡の解析が思った以上に進まないことくらいでしょうか」
「それって難しいの?」
「やはり人間界の技術ですから、人間界の技術者の方がどうしても必要です」
それもそうか、と納得したリアンシはソファーの背にどっかりと背中を預けながらお菓子をつまむ手を止めません。
少しは私の分も残してくれると嬉しいんですけど。
「それにしても、なんで人間界の技術や人がこっちにあるの?」
「こっちが聞きたいですよ。人間界にもかつて魔法があったという話がありますし、もしかすると大昔には人間界と妖精界は関りがあったのかも知れません」
「でも轟きの遺跡で見つかった遺物は人間界では割と最近の技術なんだろう?大昔に人間界にあった魔法かも知れないものとじゃ、時系列が違い過ぎる」
「なんですよねぇ。不思議、という他ありません。私達の知り得ない何かがあったということ以外、何も証拠がありませんし」
そもそもに轟きの遺跡自体、妖精界では太古の時代とまで言われている数千年前の遺跡だと言われています。
ですが、あそこにあった遺物の一つであるバイクは舞ちゃん曰く大体30年ほど前のもの。
ざっと計算しても970年以上の空白の年月があります。ここを説明する術を私達は持ち合わせていません。
過去に起きた出来事を調査すれば少しは分かることがあるでしょうから、遺跡で発見されたご遺体の身元の特定を急いでいるところではありますが、なにせ推定30年の人物の特定。
探すだけでも時間がかかりますし、30年の間に人類の生存圏は魔獣により大きく衰退してしまいました。
ご遺体を納めた棺の中には名札も入っておりましたが、劣化し、文字が霞んでしまったものがかなり多く、調査は難航を極めていると言っていいでしょう。
それに個人を特定出来ても、彼らの身に何があったのかまで特定に至るかはまた別な話。
轟きの遺跡について、その真実を辿るのは極めて困難と言う他ありません。
歴史なども関わってきます。専門家が何かを発見するまで、私達に出来る事は限られていると考える方が良いですね。
「口に出さないで全部自分の頭の中で解決しようとするの、悪い癖だと思うけどなぁ」
思考を深めていると、つまらなそうにぶすくれながらお茶を飲むリアンシから苦情が飛んで来ます。
お茶をしているんだから会話しようという意味なんでしょうけど、わざわざ言葉にするようなことではありませんね。私が私の考えをまとめるための思考ですから。
「貴女にだけは言われたくないですね。本心をひけらかすことすらしないような人に、相談することはごく少数ですよ」
「……言うねぇ」
それに、自分の本心を悟られないように常日頃からヘラヘラと道化を装っている人に話すことなんてそうそうないですよ。
露骨に顔を歪めるリアンシですけど、貴女自身のもんだいですからね。バレないとでもおもっているんでしょうか。
「そうやって面と向かって文句を言って来るのはノーヒリスの叔母様くらいだよ。一応王族相手にしてるってわかってる?」
「それを言えば私の友人は妖精界の王族ですよ。しかもノーヒリスさんの孫です」
言い負かされて悔しそうにする様子を笑って眺めるのは流石に性格が悪いですかね。ま、リアンシ相手に遠慮はいらないでしょう。つけあがるだけですしね。
「ご歓談中のところ、失礼いたします」
そんなところに役人が珍しくバタバタと急いだ様子で駆け込んで来る。普段は冷静な人が多い印象の公国の役人さんがこうまでしてやって来るという事は相当に急ぎの用事に違いない。
「手短に」
「帝国からの宣戦布告が為されました」
言われたとおりに手短に伝えられたそれは、確かに急ぐべき内容のものだった。




