共に歩む
「おいおい、身を固めたと思ったら頭も硬くなっちまったのか?そりゃあんまりだろ」
肩を竦めて見せるエースは随分な言いようだ。そこまで言われる筋合いは無いと言いたいところだけど、昔に比べたらそりゃお堅い発言ということになるだろう。
団長という身分もあるし、真白の騎士として馬鹿な事は出来ない。昔のようには出来ないんだよ。
「あんまりって、別に誰にも迷惑をかけたりはしてないだろう?」
「姫様の感情は宙ぶらりんかよお前。それに、いくら『女ったらしのパッシオーネ』言えども、あのお前の対応がマジだってことはわかるぜ」
「冗談はよしてほしいな。何度も言うように、僕らはそういう関係じゃないよ」
それを伝えても、エースは僕らがそういう関係だってことを疑わない。むしろそうじゃないとおかしいとまで主張する始末だ。
真白の名誉のためにも何度だって否定するよ。僕らはそういう関係にないし、今後もなることはないだろうってね。
「お前、それ本気で言ってるのか?」
「本気も何も、事実だからね」
凄むエースに、僕は笑みを浮かべて返すだけだ。それ以上もそれ以下も無い。何度でもどれだけ問い詰められても、僕の答えはこれ一つ。
それ以外は無いんだよ。あっちゃいけないんだ。真白は人間なんだから。
「……今はこれ以上は何も言わないでおく」
「その方が良いよ。変な噂がこれ以上広がっても真白に迷惑だからね」
「ただし、これだけは忠告しておいてやる。そのまま行ったら、お前と姫様の関係は破綻するぜ」
ビシッと指を指され、宣言される。根拠が無いね、と鼻で笑いたいところだけど、友人の忠告だ。一応、肝に銘じておくことにする。
僕らの関係がいつか破綻するなんて考えもつかないけど、そのもしかしては頭の中に入れておいても良いかも知れない。
あるとしたらそうだね、僕が真白に捨てられる、かな。少なくとも、僕から離れることは無いと思う。
「そんだけの執着を見せておいて、何がただの主従だよ。見て見ぬふりは本当にいつか手痛いしっぺ返しになるぞ」
「……そうかもね。君の忠告が現実にならないように努めるよ」
「敢えて何度も言ってやる。そのままじゃ絶対に破綻する。お前と姫様の関係は主従なんてもんをとっくに超えてるんだからな」
その言葉を最期に、エースは歩みを早めて僕のそばから去っていく。おそらくは皆が集まっている部屋に戻ったんだろう。
エースからしたら来賓だ。しかも最上位のね。そんな人物を待たせるわけには立場的によろしくない。
「それにしても、痛いところを突いて来るなぁ……」
僕と真白の関係は、主従をとっくに超えている。
わかっているさ。そんな事はわかっているんだ。人間界にいた頃からずっとわかっている。
それでもこの気持ちには蓋をした方が良いだろう。
だって僕は妖精界のパッシオーネ・ノブル・グラナーデで。真白は人間界の諸星 真白だ。
これ以上、彼女を巻き込めない。これだけ妖精界の事情に巻き込んでおきながら言えたことでは無いだろうけど、ここで踏みとどまれなきゃ彼女を妖精界に縛り付けることになる。
それは付随してミルディース王国の復活にも繋がるだろう。でもそれは僕らレジスタンスの目標であって、真白の目標じゃないんだ。
真白には散々ひどい仕打ちをして来た自覚がある。これ以上、彼女の何かを、ましてや真白の原動力である人間界で成し遂げたい目標を僕の手で奪う訳にはいかないんだ。
「真白はきっと許してくれる。周りはきっと祝福してくれるだろうけど、ね」
彼女の優しさに、これ以上甘えられない。だから、僕は僕のこの気持ちに蓋をする。堅く、キツく、出来るだけ漏れ出ないように。
真白を愛しているという、この気持ちだけは僕は彼女に伝えられない。




