星の巫女
ピケはあっさり見つかった。外に出て、近場の裏路地で変身。アパートメントの壁を蹴って、屋根から街全体を見下ろすと少し離れたところのカフェで突っ伏していた。
仕事着である給仕服を着ているからなおさら分かりやすい。
屋根から降りて変身を解き、駆け足でカフェへと向かうと変わらず突っ伏したままだった。
「ピケ」
「……何の用よ。イチャつくならイチャつけば良いじゃない」
声をかけると不貞腐れた声音が返って来る。
気持ちは分からなくもない。
カタチだけと聞いていた幼馴染の婚前旅行とやらが本当かも知れない場面を見たとなればこのくらい凹むのも無理はないと客観的に見ても同情出来る。
ただそれは勘違いなのだ。私とスタンは全然恋仲じゃない。ビジネスパートナーだ。
その勘違いは私のためにも、ピケの心のためにも、スタンの名誉のためにも解いておかないとね。
「別にイチャついてないわ。内緒話をしようとしたところを偶然貴女が見て、勘違いしてるだけ」
「なんとでも言えるわ」
「お互いね。少なくとも、私からは勘違いだって伝えておく。悪かったわ、勘違いさせるようなことをして」
勘違いさせたことは私たちの責任だ。素直に謝る。
さらに言えば、スタンが原因なので文句はあっちに言って欲しいところだけど、ピケからしたら私も勘違いを誘発した原因の一つだしね。
ピケの想いを踏みにじる意図は全くなかった。誠心誠意それを伝える。
「……ホントに聞いてた通り?」
「ホントよ。あくまで彼とは協力者であって、それ以上でもそれ以下でもないの。さっき答えに困ったのは、スタンから貴女がどこまで聞いているのか知らされてなかったから」
「……大体わかったかも」
「わかってくれるなら良いよ。スタンがちゃんと伝えないのが悪いから」
何度も確認して、こちらの事情も伝えるとピケもようやく納得してくれたみたい。
スタンの言葉足らずなところは昔からなんでしょうね。親しい相手であればあるほど油断する。そんな性格なのはわかって来た。
赤の他人との付き合いにはシャキッとするんだけどね。身内には甘えるところがある。
可愛げがあるとも言えるんだろうけど、昔馴染みであればあるほどため息を吐きたくなるかもね。
「信用してる相手には伝えなくても何とかなるとか思ってるのよね、アイツ」
「そうそう最近わかって来たところだから、私からもちゃんと聞くようにした方が良いみたいね」
「酷いとアポ無しで突撃してくるからね」
それは気をつけた方が良さそうだ。気の知れた仲のピケですらこの反応ってことは案外幼少期から振り回していたのはスタンの方なのかも知れない。
本人にはその自覚もない可能性がある。というか絶対無い。
「でも良かった、のかな?勘違いしたのは私だし、失礼したのも私だけど」
「勘違いが解けたって意味なら良かったと思う。女の子の恋敵なんてゴメンだもん」
「あはは、わかる〜。私も昔あったわ〜」
スタンは次男とはいえ帝国王家の王位継承をする可能性がある人物でもある。性格も基本的には優しくて理性的。頭も良い。
帝国貴族の女性たちからはそれは引く手数多だったに違いない。
そんな中で幼い頃からスタンと近しい間柄だったピケはその嫉妬と嫌がらせを受けまくったことは簡単に想像出来る。
もしかすると、ピケのすぐに口に出てしまう悪癖は陰湿だろう貴族令嬢たちからの嫌がらせを正面から突っぱねるための防衛手段だったのかも。
「ホント、早とちりしてゴメン」
「このあとスタンに文句言いに行こう」
「賛成ね」
2人で笑って、スタンに対する日頃の愚痴を言い合う。あんまりお行儀は良くないだろうけどさ。愚痴って言ってもアレがダメとかこれがダメとかじゃなくて、歴史オタ話に付いて行けないから大変とかそういうのね。
悪口にも限度ってものがあると思うしさ。思っても言わない、共有しない方が良い感情って絶対あるから。
その辺の線引きみたいなものはピケとは近い感性を持っているっぽい。
「――でさ~」
「あー、ね。なぁんでアイツってば普段は察しが良いのにそういうところは――」
「ご談笑中のところ大変失礼いたします。少しお時間をよろしいでしょうか」
最初の雰囲気とは変わって、笑いながら話をする私達に誰かが突然話しかけて来た。




