星の巫女
「とりあえずスミアって呼ぶわね」
「それで良いわ。私もピケって呼ぶから」
初対面でも遠慮する必要は無い。というか、多分ピケは変に距離を取る方が嫌うかな。
自分もノーガードで行くから、お前もノーガードで来い。そういうスタンスの人だ。変に取り繕って相手にした方がめんどくさそう。
「じゃあピケ。とりあえず案内を頼むよ」
「はいはーい。お給料分のお仕事はしますよっと」
ピケに魔車の操縦を譲り、この街あるピケが管理してるだろうスタンが持っている住居へと案内される。
流石にここは主従の関係がハッキリしている。というか、ピケの言葉そのままの意味かな。
給料に見合った内容の仕事をする。なるほど、確かにこういう性格なら働かせる分には使いやすそう。
対価と労働のバランスにはうるさいだろうけど、そこだけのバランスさえ取ればこちらの望んだ仕事をキチンと熟す。
『口だけは酷く悪い』とは言葉通りの意味というわけだ。
「思ってるよりはマトモなのね」
「初対面の印象の悪さがとにかく玉に瑕なんだよ」
魔車を操る手も器用なもので、口の悪さとは裏腹にルールに則って丁寧に操る姿はサマになっている。
少なくとも私よりは遥かに上手い。
たまに手綱を操る練習をさせてもらうけど、私じゃあ魔車を引く魔物達からは不満そうな視線を向けられるしね。
「とにかく自分に正直なんだ。曲がったことが大嫌いで頑固者。貴族社会じゃあとてもじゃないけど生きていけないよ」
「確かに。私も似たような世界で生きてるけど、あそこは真意を如何に隠して遂行するかが腕の良し悪しだもんね。ピケの性格じゃあ無理でしょうね」
彼女の良いところは自分に真っ正直なこと。悪いところは全部口に出してしまうところ、か。
そりゃ貴族社会じゃあ嫌われる。あっけらかんとした口調や態度とは裏腹に苦労したに違いない。
苦手なタイプなのは間違いないけど、その身の上には同情出来る。彼女は間違いなく、生まれてくる世界を間違えてしまった人のウチの1人だ。
そんなこと言ったら、くだらないと苛立ちを隠さずに言うだろうから言わないけど。
「で?何処までヤることヤったの?」
「……」
「ピケ、少し黙った方がいいかも」
やっぱコイツ、嫌いかも。
口が悪いのは百歩譲っても、品の無さと配慮の無さはフォローし切れない。
普通聞く?そういうこと。建前ばかりの婚前旅行だから周りはそう思うかも知れないけど、思うだけで普通は聞かない。
プライベートだし、聞くものですらない。
機嫌を損ねた私と、それを気にしてないピケと、その間を何とか取り持とうとするスタンとで、魔車の中はにわかに騒がしくなる。
あたふたとするスタンを無視しながらやって来たのは『カーセル』の街でもハズレの方。
所謂市民生活の場、という奴だ。幾ら祭壇と共にある遺跡の街とは言え、全員が全員祭壇の周りに住んでいるわけじゃないらしい。
だけど、やはり建物や街並みは全体的に古いように見える。
これはボロ屋という意味ではなく、建物や街並みの構造が、という意味。
むしろ建物も街もよく整備されていて綺麗だ。人間界で似ているところだと、パリかな。
一軒家ではなく、三階建くらいのアパートメントが軒を連ねている感じだ。
因みに帝都はドイツのベルリンに似た雰囲気だったわね。かなり整然としてたし。
「ハイ、長旅お疲れ様。魔車は預けて来るから、中でくつろいでて」
「まるで自分の家みたいに言うね」
「殆どそうじゃない。勿論、散らかしてるなんてことはしてないから安心して」
スタンに鍵を渡したピケは慣れた手つきで手綱を操り、魔車を預け先まで走らせて行った。
出会って数十分だけど、正直既に疲れている。
「ごめんよ。あんまり得意じゃないでしょ、ピケみたいなタイプ」
「大丈夫。私が慣れれば良いから。ある意味いい勉強になるわ」
こういう人間もいると知るのはいい勉強だ。私の周りには絶対いない人だったから。
拒否するでもなく、理解を示すわけでもなく、まず知ることから。
真白お姉ちゃんから教わった色んなことがどれだけ大事で、そのおかげでこうして冷静でいられる。
教わったことを実践する良い機会なんだ。私も成長しないと。




