星の巫女
「……っ!!」
自己紹介を促した彼女の反応は私が見る分には苛立ち、だと思う。
私の言動が何かしらの彼女の琴線に触れたようだ。だからといって何をするわけでもないけど。
自己紹介を促した程度でイラつくめんどくさそうな人だという昨今の私の人間関係の中でも第一印象が悪くなっただけだから。
少なくとも、現時点では彼女とは仲良く出来なさそうだなと思った。
「っと、スミアに紹介するよ。彼女はピケ。ピケ・ノブル・クラオト。子供の頃から僕の遊び相手になってくれた子で、今は僕の従者として働いてもらっているんだ」
そんな私達の一瞬のやり取りをスタンは気付く様子もない。いやまぁ気付かないようにお互いしてるから当然だけどね。
世の中の女の人達はこういうことを平然としてるクセに、男が見抜かないと察しが悪いとか言うでしょ?
非合理的だし、自分勝手で傲慢だなと素直に思う。だから恋愛にうつつを抜かしてる人、あんまり好きじゃないんだよね。
キラキラする事だけに執着してて、バカばっかり。
このピケという少女は、そんな私が苦手にしていそうな女の子の典型例って感じだった。
「ピケよ。貴女がスミア?」
「えぇ、諸星 墨亜よ。諸星が姓。よろしくね、ピケさん」
だからといって初っ端から険悪な関係に率先してなる必要性も無いだろう。
最初の印象が悪いだけで、例えば口調や仕草が荒っぽいだけで根は優しく、面倒見の良い人なんて人もいる。
人と物事は多面的に見るように。教えてもらった中でも大事なことだと思っているそれを信じて、ある程度の友好を示した私に対して。
「ふーん。随分と根暗に見えるけど、スタン。あんたこんなのが好みなの?」
このピケという輩は初っ端からぶっ込んで来た。
空気が凍るとはこのことだろう。ピシリと音が聞こえたように私とスタンは笑顔を貼り付けたまま動きを止めた。
なんだ、コイツ。
湧き上がった怒りをグッと抑えて、アンガーマネジメントを行使した私を褒めて欲しい。
これが朱莉さんだったら間髪入れずに手が出ているに違いない。私はそこまで喧嘩っ早くない。
口で言い返さなかったのはホントにギリギリだった。
「……ごめん、こう、口が酷く悪いんだ」
「……あぁ、察したわ。貴族の令嬢がなんで王弟の嫁じゃなくて、従者なのかをね」
彼女の名前はピケ・ノブル・クラオト。妖精界において、ノブルという名前はいわゆる冠名とでも言えば良いのか。
貴族出身であることを示すもので私達の知り合いだとパッシオとサフィーリアさんがノブルの名前を持っている。
そんな貴族出身の彼女がここにいるのか、私は予想が出来た。
「そういうこと。どこかと婚約しては婚約者やその親兄弟とトラブルばかり起こしてね。見兼ねて僕が仕事を与えたんだ」
コソコソとピケに聞こえないように彼女の情報について共有する。出来れば先にしておきたかったけど、私ってばずっと魔車の屋根の上で見張りしてたしなぁ。
彼女と付き合いが長いだろうスタンが失念していたということもあるだろうけど、彼女は彼女でワケ有りということだ。
主にその人格に、と言う意味でだけど。悪い意味で妖精らしい妖精に初めて出会ったと考えるべきかな。
「何よ、2人でコソコソと感じ悪いわね」
「ごめんごめん、ピケについて説明してなくてさ。ほら、君ってばかなり口が悪いだろ?」
「別に良いでしょ。思ったことを言ってるだけなんだから。私のこの性格を嫌うのなんて、貴族連中か後ろ暗い連中ばかりじゃない」
その思ったことを全部口にしちゃうのが良くないんだけど、見方を変えればなんでも正直に話し、誰に対しても平等に接する人とも取れる。
人によっては逆に付き合い易い人もいるのだろう。実際、スタンはこの如何にも問題のある彼女に仕事を与えてまで手元に置いている。
長い付き合いがあるだけでは説明の付かないところだ。いくらスタンが人情っぽいところがあるとしてもね。
「街の人は今じゃ良くしてくれるわよ」
「今じゃ、ね。相変わらず口だけは悪いんだから……」
性格に難あり。正しく言うなら脳みそと口が直結してるバカ。
私はピケのことをそう評価することに落ち着いた。何にせよ、苦手なタイプだからしばらく気疲れしそうだ。




