星の巫女
「へぇ、何だか変わった街ね」
スタンとの旅路を続け、次に辿り着いたのは『カーセル』という街だった。
「だろ?遺跡がある街、じゃない。街が遺跡そのものなんだ」
街に辿り着いて、真っ先に浮かんだ印象は遺跡。ただし古臭い、寂れた遺構ではない。
この街の遺跡は生きている。いや、スタンの言う通り街が遺跡としてと体裁を保ったまま、街としても機能している。
古都と言うには崩れた廃墟があり過ぎる。遺跡と言うには人の営みがあり過ぎる。
街なのに崩れてる。崩れているのに人が当たり前に過ごしている。人間の私からすればあまりにも不思議で、非効率的な光景は変わっていると表現するには都合の良過ぎるくらいだった。
「街なのに崩れた建物がそのまま……。直したりしないの?」
「この街はこの世界で信仰されている神。天空の神『ウラノス』、太陽の神『ヘリオス』の二柱。そしてそれと共に戦った神話の英雄達の祭壇があちこちにあるんだけど……」
迂闊にも何となく聞いた私はうんちくを披露し始めたスタンを横目にもう一度街並みをぐるりと見回す。
石畳は定期的に敷き直されているのか、道だけは比較的新しい。だけど、多分古い工法だ。
帝都にあった石畳の整然さと緻密さとは違う、よく言えば味のある。悪く言えば古臭くて緻密さに欠ける物だ。
魔法で綺麗に均されていただろう帝都とは違い、恐らくは手で削った石で出来たそれは魔車の車輪と人々の往来を磨耗という形で示していた。
まるでギリシャや地中海に残る古代史の遺跡だ。
真白お姉ちゃんが言うには、欧州には火山の噴火によって街一つがまるまる溶岩のの下に埋まったことで、当時の暮らしそのままで発掘された遺跡があるのだとか。
この街はまさにそんな感じだ。古代から時の進まない、古い街とかそんなものじゃなく、この街が遺跡。
街のまま遺跡になった。それが『カーセル』という街の姿だった。
「つまり、街全体が一つの祭壇みたいなものなんだ。誰が1番偉いとかではなく、等しく彼らは尊ばれるべきであり、何より彼ら自身がお互いを尊重し合っていた。この街はそんな彼らを讃え、祀り、妖精界にその伝説と精神を伝え続けるために領土こそは帝国だけど、ほぼ自治区のような形で存続して」
「はいはい、説明長すぎ。すごい街なのはわかったから。ほぼ全部の建物が祭壇兼住居で、ここの人たちは壊すんじゃなくて、新しく建ててまた何百年も同じ建物で生活する。そういうことでしょ?」
放っておくと何時間でも話し続けてそうだからそろそろ止めておく。
本当に歴史オタクなんだから。
「流石スミアだ。それがこの街の独特な風景を生み出しているんだ。英雄達を祀るための祭壇の新旧はあれど、どれも市民には親しまれているんだ。流石に崩れそうな物には立ち入り禁止になるけどね」
「はいはい、後でたくさん聞いてあげるから案内の方が先。ここに従者がいるんでしょ?」
「あぁ、そうだった。一応、連絡は入れているんだけど……」
また説明を始めかねなかったので制止する。寝る前の子守唄にでも聞いてあげるから、その時にね。
『カーセル』の街にいるというスタンの従者を探す方が先だ。
スタンの話によると既に連絡は来ているらしいので、迎えに来ているのだろうけど……。
「ところで後ろにいる子がその子?」
「えっ?!」
「え?」
それらしき子は既に私達の乗る魔車の後ろに乗り込んでいる。
驚くスタンとその女の子はキョトンとしているけど、流石に素人の忍び足には気付くよ?
念の為に『31式自動拳銃』に手をかけていたけどね。
敵にしてはあまりにもお粗末だし、盗みにしてはのろま過ぎるから、多分見知った顔のイタズラだと判断した。
「よく分かったね……」
「一応修羅場は潜ってるのよ」
治安が悪いところなんて私とお姉ちゃんだけで歩いてるだけで追い剥ぎやら人攫いやら寄ってたかって来たものだ。
ま、全員返り討ちにしたんだけど。
「で?貴女の名前を聞かせてくれる?」
そんなことより、従者だという女の子との話の方が大事。まずは名前を聞かないとね。
新年、あけましておめでとうございます。今年もアリフルをよろしくお願いいたします。
2023/1/4 伊崎詩音




