幽世
「成程ね。万事解決したわけだ」
後日、私達は再び街を発ち、笠山の地へ向かった。
勿論、必要な事は済ませて、だ。街に戻ったことで妖精界に行っている皆への無事の報告や共有されている情報を得たり、色々なことをしている内にあっという間に数日が経ってしまった。
一番大きな出来事は入籍の書類を役所へと提出したことだろう。嬉しさと気恥ずかしさがあったが担当してくれた職員の女性にも祝福してもらえた。
知人や親族にも連絡をした。流石に近しい人達だけだがな。大々的にやるのは結婚式を挙げる時で十分だろう。
「仲間連中からは反対が出なかったのか?」
「ほぼ全員から小言を言われた」
「真白ちゃんからはガチめのお説教だよね。まぁそれも、真白ちゃんの寿命の話をすることで丸く収まったんだけど」
私がルーツの力を手にし、人間から外れる予定であることについても話し合った。連絡の取れた仲間達ほぼ全員から心配かあるいはため息と小言が返されたが、全員が口を揃えて「どうせ止めてもやるんだろ?」と返された。
その通りだとしか返す言葉はない。これもある意味の信頼だろう。私なら、私達なら大丈夫だとな。
それでも真白の小言は長かった。どうして一人で決めるのかだとか、要のことについては自分にも責任があるとか、色々な?
それも結局は真白自身が抱えている問題の一つの解決では無いが、緩和策にもなることを伝えると真白はそれ以上言って来る事は無かった。
本人も話はしてなかったが、自覚はしていたことだろう。魔力がある限り肉体は若く保てるのが妖精の特徴だ。
人間に比べるとその寿命はかなり長いと聞いていた。
そのハーフである真白はどちらかと言えば妖精寄りの気質を持っているようだし、恐らくはかなりの長命になるだろう。
なんだかんだ、寂しがり屋だ。もし、私達全員が寿命で亡くなる中、自分だけが若さを保っていた時、真白は自分を苛むだろうことは容易に想像がつく。
「朱莉に飛び火したのは災難だったな」
「真白ちゃんの寿命のことについて、最初に心配したのはあの子だからね~。しかも本当に全員に黙って人外になっちゃってたんだから。まぁ、真白ちゃんにこってり絞られると良いよ」
これらの話の中で、朱莉について話をしないワケにもいかなかった。要の話によれば、朱莉は別の手段。
予想をすると、多分バハムートのメモリーを一度体内に取り込んだ事による変化だろう。竜化、とでも言うべきか。
強すぎる力に身体が影響を受ける。これもまた容易に想像が出来る。
私達だけ話をして、朱莉だけは内緒というワケにもいかないし、いずれは話さなければならない事だ。今のウチに全部ゲロっておいた方が円満だ。
これはグループ通話で行っていたのだが、無言で真白が通話を切ったのが一番怖かった。
朱莉とは別行動中とのことだが、朱莉の居場所に真白がすっ飛んで行っているのだけは間違いない。
私以上に怒られるだろう。何せ朱莉は真白のためだけに竜化の力に手を出した節があるからな。
手段と目的の副次効果である私とは全く状況が違う。アイツは引き返すことが出来たハズ。それを相談しなかったツケだ。しっかり絞られて来ると良いさ。
「遭難者がいるってのも気になるね。一般人なんだろう?」
「神様とやらに協力を頼まれたんだったな……」
一般人が妖精界で遭難状態だという報告も気になるところだった。聞くところによれば、女神様とやらに渡された12枚もの未確認のメモリーを真白へ手渡すことを頼まれた少女なんだと言う。
番長と雛森さんが彼女の話には一定の信憑性があると判断したのだから、遭難した少女自体に問題は無いだろう。
怪しいのは女神様とやらの方だ。2人いるらしく、彼女達が何者なのかを探っているとのこと。
メモリー自体、新規の製造は殆どしていない隠された技術だ。それを12枚も用意したとなると、この女性たちはかつての【ノーブル】関係者と見るのが筋だが……。
これについては続報を待つ必要性がありそうだ。
「まさかな……」
「何か心当たりでも?」
「ん、無いわけではないが、何分確証も無い。俺達の師匠に当たる方なんだが、俺達からコンタクトを取る手段はもう無いからな……」
「世界から世界を渡り歩いてる方たちだからねぇ……」
悠さんと郁斗さんはこの女神を自称する2人に一応の心当たりがあるようだが、そちらはそちらで事情がある様子。
私のような凡人には理解も難しい領域の話だろう。その辺りは来たるべき時が来たら分かるだろう。番長曰く、悪い事にはならない気がする。だそうだ。
「墨亜ちゃんのことも心配だね」
「あぁ。だが、私と真白の妹だ。心配はするが無事は確信している。半端な鍛え方はしてないさ」
私達の中で、現在墨亜だけが連絡のつかない状態となっている。狙撃手という役割の都合上、墨亜はサバイバル能力も鍛えているし、頭もキレて冷静だ。
何より自慢の妹。心配はあるが、きっと無事さ。
「よし、話したいことは山ほどあるけど、そろそろ行こうか」
「はい。よろしくお願いします」
情報提供で得た情報や私と要の近況報告など、話しが出来る事は湯水のようにわいて来るがそれで時間を潰すのも程々にしなくては。
悠さんの号令と共に、私達は身なりを整え、出立の準備をする。
外にある郁斗さんが用意した地獄への門は、その名前の通りおどろどろしいものだった。
だが、怖気づくわけにはいかない。私はこの先で力を手に入れる必要があるのだから。
「さて、行くか。『地獄』に」
そうして、私達は『地獄』に足を踏み入れた。




