幽世
「泣くなよ。私が泣かせたみたいじゃないか」
「千草が泣かせたんだよぉ……。そんなこと言われると思わないじゃん」
泣いたことに狼狽えている千草と、自分でもまさか泣くとは思ってもいなかった私とでわちゃわちゃとし始める。
あーあ、そこまで言われたら何も言い返せないじゃん。これ以上、皆の中で人間辞めちゃう人が出るの良くないと思ったんだけどなぁ。
「良い話だなぁ。俺らこんなのやってる暇も無かったもんなぁ」
「お互い必要に駆られて、だからな。是も非も無かった。ちゃんと選べるってのは少し羨ましくはある」
「なんだ?後悔してるのか?」
「まさか」
私と千草のこれからについて、お互い言いたい事は全部言ったと思う。それを見守ってくれていた悠さんと郁斗さんもそれぞれ思うところがありそうな話をしていた。
2人とも、ルーツの力を手に入れた時は笠山の街から人々を逃がすために選択の余地すらなく、最善手として行使することになったんだろうな。
私もそう。最善手として選んだ結果、付随して来てしまった力だ。
それを考えれば、少なくとも千草は幸運だ。自分から選択することを出来たんだから。
周囲に納得してもらうのは大変だろうけどね。
「さて、話にケリがついたところで、早速動くところを動かないとな。まずはお義母様とお義父様達に話さないとな」
「私も話すかぁ。気が重いなぁ」
「泣かれる覚悟は必要かもな。怒られることはないと思うが……」
そればっかりは言ってみないとね。魔法少女をしてる段階で両親や家族には相当な心配をかけている。
更に加えて、人間では無くなってしまうということまで言われたら、倒れちゃう人だっているだろうなぁ。
うちのお母さんも心配性だしね。でもまぁいつかバレることだったと思うし、自分の口でちゃんと説明するのが筋ってものだよね。
「時間は無いが、そっちは時間がかかりそうだね」
「流石にそうですね。納得してもらうまで、時間を要する可能性もあります」
千草の両親である光さんや玄太郎さんは比較的すぐに納得してくれると思う。
問題はうちの親かな。私の場合は既に純粋な人間じゃなくなっている。少なくともお母さんは卒倒モノの反応を示すと思うし、お父さんもしばらく飲み込めないと思う。
大企業の社長ではあるけど、割と一般人的感性だしね。私の両親。でもまぁ、それが普通だと思うよ。
「仕方ないさ。親の立場だったらと考えたら、俺らだって止めろって一度は絶対に言うしな」
「私も同じ立場だったら倒れる自信がありますね。一週間は寝込むかもしれません」
「要が寝込むとは思わないが」
軽口を叩いた千草の膝の裏を蹴っ飛ばしてから、両親の反応と自分がどういう言葉を使って伝えるべきかを幾つかシミュレーションしておく。
真白ちゃんから教えてもらったプレゼンの予行練習の方法だ。何かと役に立つので習慣づけしておくと便利だよ。
ともかくうちの両親にどう説明するか。それが目下の問題だ。
「俺らが付き添えればいいんだが。前にも言った通り、俺らは笠山を離れることが難しい。それに準備もあるからな」
「準備ですか?」
「故意にやる以上、手続きがいるんだよ。魂に関わる事だからな。俺達『鬼』の管轄に近いんだ」
郁斗さんと悠さんは事情により笠山の地を離れられないのは3年前にも聞いたことだ。
ただ、ルーツの力を手にするために準備はわかるとして、手続きが必要らしい。そんなお役所仕事みたいなことをしなきゃいけない事だったのかと初めて知った。
というか、そんなことを出来る役所?みたいなものがあるという事なんだろうか。魂に関わる役所なんて聞いたことが無い。
「そりゃそうだ。魂の管理を現世でする訳ないだろ?」
「だとすると、それ以外という事ですか」
「あぁ、魂を管理者。『地獄』の『閻魔大王』のところに行く。おっかないから覚悟しておけよ?」
なんだか急に物騒な話になって来た。私達は果たして大丈夫なのだろうか。




