幽世
二人揃ってバツの悪い顔をする。私は今まで自分のことについてちゃんと話さなかったこと。千草は全部自分で決めて、それを押し通そうとしたこと。
どうして?なんで?と言い合っても、それはお互い同じ気持ちから来ているモノで、灯台下暗しというか、何というか。
キチンと腹を割って話せば、言い合いになるようなことにはならない内容だなと少し冷静になると改めて思う。
「どっちが悪いとか、どっちが正しいとか。そんな極端な話じゃなくてさ、起こってしまったことをどうするか、自分はどうしたいのか。もしくはどうしてそういう行動を取ったのか」
「以心伝心なつもりでも、腹の底まで見せなきゃわからんことも山ほどある。恥ずかしがったり、妙なプライドは一度捨てて、思っていること全部話せば良いさ」
「そういうこと。席は外しておくから、ケンカして小屋を壊すことだけはしないでね」
なんだか何を話せば良いのか決めあぐねていると、悠さんと郁斗さんがそれっぽいことを言って、丸投げして来た。
いや、丸投げするしかないのか。これは私達の問題であって、悠さんと郁斗さんが絡んだ話じゃない。
2人の言う通り、自分の感情のまだ言葉に出来ていないところまでしっかり伝えあわないと私達が納得し合うことはきっと無いと思えた。
悠さんと郁斗さんはそう思っている合間にさっさと小屋の外に出てしまって、小屋の中に残されたのはもじもじしている私と千草だけだ。
「……」
「……」
露骨に困ったという表情をしながら、ぽりぽりと頭を掻いている千草。こういうの苦手だもんね。
千草は行動で示すタイプの人間だ。口下手とも言う。
自分のやりたい事、成したい事。話す前に身体が動いているから、説明がワンテンポ、ツーテンポ。酷いとスリーテンポくらい遅くなる。
それを汲んで、簡単に周りに説明してあげるのも私の役割というか、それを一番素早くわかるのが私だったからね。
その2人が揉めているんだから、周りはもっと理解出来ないよね。いや、逆に単純なことなのにって周りの方が先に気付くのかな?さっきの悠さんと郁斗さんみたいにさ。
「最初はこの力に気付いてなかったって言うのは本当に本当。真白ちゃんの『繋がりの力』で相当無理矢理に生き返ったみたいな感じでさ。あの時、殆ど死んでるというか、普通に考えれば死んでたんだと思う」
とりあえず私から話さなきゃいけないよね。千草は口下手だし、何より先に話さなきゃならない事を黙っていたのは私だし。
状況を正しく説明できるのも私。どうしてそういうことをしたのか、なんで千草に同じことをして欲しくないのか。
ちゃんと話さなきゃ伝わらないよね。
「三途の川、だったか?そこに行っていたってことか?私もついこの間までそこにいたんだろ?生憎、全く記憶に無いが……」
「仕方ないよ。生きている人間が行くところじゃないもん。私は一度あっちに行ったことがあるし。ほら、普通の人間じゃないからさ」
自分で口にすると、それが現実だって突き刺さる。あー、そうか。私、自分でもちゃんと実感してないって言うか、直視しないようにしてたのか。
自分が人間じゃなくなるってことを。いつか完全に『雪女』になっちゃうって事から、私自身が逃げてたんだなと言葉にしてようやく理解した。
物凄く怖いことだから。とてつもなく不安な事だから。わかっているつもりで、自分でもわかっていなくて、受け入れきれていなくて。
だから千草に同じことをして欲しくなかったんだなと理解する。
悠さんや郁斗さんの言う通りだ。ちゃんと言葉にして伝えないと、自分でも分からない事が分かるようになるんだな。
「……そうか。魂だけがあの世に行ってたって感じか」
「うーん、その辺は詳しくないんだけど、三途の川はあの世とこの世の境界線見たいなところで、あの世でもあってこの世でもあるっていうか……」
「スポーツで言うとラインの上ってところか」
「そうそう!!だから、三途の川ってラインを越えたら完全にあの世で。そうなったら絶対戻って来れないんだけど、私はそれを物凄くギリギリで帰ったんだよね」
普通、誤って三途の川に来てしまった人はその境界線、ライン上でもこの世側に近いところで帰れる。
だって生きてるし、生き返ったからね。逆にあの世側に近づいてしまったら基本的に無理だ。
身体が蘇生出来る余地が無いし、身体何とか生命を維持しても、魂はあの世に行ってしまうこともあるとか。
そうなると意識が戻らないまま、ゆっくりと身体が死んで行く。
私もそうなるハズだったのを、強引にどうにかしてしまったのが真白ちゃんの『繋がりの力』だった。




