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魔法少女アリウムフルール!! 魔法少女を守る魔法少女の話 + 魔法少女を守る妖精の話  作者: 伊崎詩音
あの世とこの世

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幽世


「目が覚めてからずっとあの調子。俺と郁斗と戦っては腕を磨いてるってやつだな」


「ご迷惑をおかけします……」


私より早く目が覚めた千草は悠さんと郁斗さんに模擬戦を申し込みまくっていたらしい。強さを求めている千草らしいと言えばらしいし、


わからなくも無い。私達の師匠みたいなものだし、二人以上に強い人に出会った事は無いと思っている。


それでも遠慮せずガンガン申し込んでいただろうから、二人に迷惑になってないと良いけど。


「いやいや、基本俺達暇だしね。千草と要の成長ってのは見てて嬉しいし、俺ら二人とも乗り気だから、気にしなくて良いよ」


「ありがとうございます」


けらけらと笑う悠さんはいつも通りだ。実のところ、そもそも仙台の学校に千草と一緒に通うようになってから、私はこの笠山の地には何度か足を運んでいる。


千草にも内緒にして、だ。それには幾つかの理由があって、だから悠さんと郁斗さんに会うのは個人的には久しぶりでは無かったりもする。


妖精界から三途の川へとやって来てしまった私達を、唯一知り合いで鬼の郁斗さんが見つけてくれたのは本当にラッキーだったと思う。


奇跡と呼んでも良いかもね。そのくらい絶望的な状況だったことは私もよく分かっていたつもりだ。

それを気合一つで手繰り寄せられた。今は心底ホッとしているのが本音。


「千草、強くなったな。当たり前に俺の剣に食らい付いて来る人間は初めて見たかも知れない」


「強いですよ。私達の中でも近接戦闘では一番と言っても良い実力者です」


「だろうなぁ。あの年で人間の限界領域にまで足を踏み込んでる。素直に称賛するよ。俺に並ぶ天才だ」


自分のことも天才だとしれっと認定している悠さんだけど、実際本当に強いから否定することでもない。


逆に唯一レベルの剣の天才に、自分と同格と言わせしめる千草もまた剣の天才であることは明白だ。

それだけの才能を持っていて、努力を怠らない千草は本当に凄いと思う。


「ただ、そろそろ頭打ちだろうな。魔法少女とは言え、人間は人間。限界は本人が思っているより早く来る」


でも人間はピークの時間がとても短い生き物だ。大体20歳を基準にして、25くらい辺りから特に身体能力に関しては緩やかに落ち目になって来ると思う。


魔法少女は魔力以上に身体が資本だ。だから、現役の魔法少女は若い子が多い。これはスポーツ選手とかにも同じことが言えるかもね。


身体のピークが終われば、その経験を生かした技術で戦っていって、後輩たちにその技術と経験を継承していく。


魔法少女も人間だから、そういうサイクルになる。いくら魔力があったって寿命が延びるかどうかは今のところ誰も分からないわけだし。


「これ以上に行くには、人間じゃ無理だ。人間を辞める覚悟が必要になる」


「……悠さん」


悠さんの言葉に、私は待ったをかける。まるでそれを良しとするかのような言い分だ。

だけど、私はそれを看過出来ない。それをすればいつか大きな不幸がやって来るかも知れないから。


何より、千草にはもう婚約者がいる。未来の幸せは確約されている。千草の彼氏さんの五代幸助(ゴダイ コウスケ)さんはとても良い人だし、千草のことを一番に考えてくれている。


近い将来、家族になることは間違いない。


「悪いが、先に話すことは話した」


「悠さん!!」


私には『もう手に入れられない幸せ』を千草には手放して欲しくない。それはずっと前から考えていたことだ。


だからこそ隠していた。3年前、手にした力が何だったのか。同じ朱莉ちゃんと無言で交わした、純粋な人間では無くなってしまったことを隠し続けようと思っていたのに。


「諸々の事情は聴いた。敵が何なのかもな。弟子をむざむざ死地に向かわせるほど、俺達だって冷徹じゃない」


「だからって千草に……!!」


「あのバケモノ相手にはただの魔法少女じゃダメだ。人間だけじゃ勝ちきれない。生き物の範疇から飛び出した怪物を倒すのには、こっちもリスク覚悟で戦わなきゃダメだ」


それをあっけなく手放させるなんて、私にとってはあり得ないことだった。糾弾する私をみて、悠さんは少し目を伏せるだけで、決して自分の考えを曲げるつもりは無いみたい。


悠さん達はこう言っているのだ。千草『にも』人間を辞めろって。


認められる訳が、無かった。


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