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魔法少女アリウムフルール!! 魔法少女を守る魔法少女の話 + 魔法少女を守る妖精の話  作者: 伊崎詩音
戦火の臭い

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長蛇の列を成し、軍服に身を包んだ兵隊たちが険しい山道を登っていく。


魔法という万能にも聞こえる技術がある妖精界でも、これだけの大人数で行う山越えには地道に歩くくらいしか方法が無い。

平地ならともかく、ここは妖精界では世界の背骨と称される『コウテン山脈』。王国、公国、帝国のそれぞれの国境にもなっている。


いや、正しくは国境にせざるを得ないほど、険しく厳しいこの『コウテン山脈』を何人いるか一目では分からない程の人数で魔法を使って一気に越える、というのは土台無理な話だった。


「直接お会いになっていかがでございましたか」


「思っていたよりも……、なんて言い方は失礼だな。俺の予想を遥かに超えて来た。歳を聞いて、まだ子供じゃないかと思っていたが、芯の強さは俺以上だと感じた」


そんな険しい道を進む隊列の中央。もっとも防御しやすい箇所に巨体を揺らしながらゆっくり歩く馬に似た姿を持つ魔物とそれの背に乗る男性。

そしてその側につく、これまた巨躯を持つ兵士という組み合わせは多くの種族が混ざる長い長い隊列の中でもひと際異彩を放っていた。


軍馬のような魔物に跨る男性は名前をレクス・イニーツィア・ダイナ・ズワルド。


妖精界にあった3つの大国の内、ズワルド帝国と呼ばれている大国。その王その人だ。


それに付き従うのはエストラガルという帝王レクスの忠実な騎士であり、昔馴染みの友人でもある。『砕裁のエストラガル』と言えば、妖精界でも指折りの実力者として名高い人物でもある。


この世界でも飛び切りの重要人物である二人が話題にしているのは、先ほど撤退して来た旧ミルディース王国領内での戦いで出会った一人の女性についてだった。


名前を諸星 真白。あるいは『花びらの魔法少女 アリウムフルール』。そう呼ばれている女性は人間界で武勲を立てた英雄であり、高い精度の障壁魔法と治癒魔法を操り、妖精界の王族の血をひく稀有な存在。


それが彼らが当初得た情報により感じた諸星 真白という女性の印象だった。

一言で言うなら、女傑。彼らはそういう人物を想定して、それでいて期待し過ぎない程度に。


そうして、帝王レクスは様々な思惑と期待と不安を乗せながら、忠臣であり親友でもあるエストラガルを人間界へ送り込んだ。


そして、完膚なきまでに叩きのめされた。エストラガルを含め、武力を良しとする帝国でも実力者と呼ばれる兵士たちを引き連れていったのにも関わらずだ。


「最初にお前が圧倒されたと聞いた時は驚いたぞ。普通に勝って来ると思っていたからな」


「私だって予想外でしたよ。障壁魔法の使い手と来たら、普通なら防御のスペシャリストです。それが攻撃にも防御にも優れた攻防一体の一流の戦士だとは……」


「はははは、あのプリムラ姉さんの娘だぞ?ただで終わるものか。まぁ、俺もそれを失念していたわけだが」


豪快に笑う帝王レクスの表情は晴れやかだった。戦地から帰っているというのにその疲れを感じさせないのは王たる威厳からか、あるいは本当に疲れていないのか。


少なくとも彼の表情は満足げであった。閉ざされていた道が開けたかのような、そんな印象を受けるくらいには。


「エスト、彼女をどう思う?」


「それは私が先にした質問ですが……。まぁ、その資格を持たない私に測るような真似自体、無粋ではあると存じます。それを踏まえても敢えて評価するのであれば……」


最初にエストラガルが帝王レクスへと投げかけた問いとほぼ同じような内容の問いを悪戯めいた表情でエストラガルへと投げ返す。


それにエストラガルは不満そうな反応を示すが、親友でもあり主君でもある帝王レクスに諸星 真白への評価を敢えて答えることにした。


「十分すぎるほど足りるかと。既に民からの信頼も厚く、思慮も深く、臣下にも恵まれております」


「ふふっ、お前もそう思うか。なら、問題は無いか」


「『王』のこととなれば、貴方の方がお詳しいかと」


「そう言うな。第三者からの視点と言うのは大事なのだ。特に『王』はな。彼女にはその資格も品位も知性もある。俺から見ても十分な程に王になる器を持っているだろう」


二人が話す真白への評価の中心は真白が王になるのに相応しい人材か否かだった。彼らにとって、王座に就きたがらない真白を王として引っ張り上げたい理由がどうやらある様子だった。


「問題は、本人がその気が無いことですか」


「仕方あるまい。彼女の言う事ももっともだ。しかしそれでは不都合な点もあるのも事実。難しいがあくまで彼女自身の判断で決めてもらいたいものだ。一応、こちらからも手は打つがな」


諸星 真白は王になる気がない。彼らにとってそれは解決したい問題ではあったが、同時に必要以上に引っ掻き回せるほど状況が許してくれない。


何より王になるという決断を急がせては本末転倒になりかねない。

慎重に事を進めるには時間がかかるのも仕方が無いし、真白という人間を更に知った場合、無理に王になるための外堀埋めをすると反発するだろうのは間違いない。


「さて、次はのらりくらりと面倒事を避け続けているバカの目を覚まさせて来るか」


「兄弟のように育ったのですから、そう言わずに。あれはあれで上手くやっているかと」


「平時はそれで良いが今は緊急だ。そろそろ本気を出してもらわんと困る。アイツだって分かっているハズだ」


真白の話題はすぐに進まない以上打ち止めになる。次の話題は帝王レクスがどのような一手を打つかだった。


「公国に揺さぶりをかけるぞ。リアンシの阿呆をいつまでも待っているわけにはいかん」


そう言って、彼は次の標的をスフィア公国と定める。


『災厄の魔女 ショルシエ』を擁するズワルド帝国。その帝王レクスの腹の内を知る者は極限られた者だけに留まっているのだった。


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