戦争
「何っ?!」
体勢を大きく崩した軍馬と障壁の合わせ技によってその背から引き摺り下ろされた帝王レクス。
それだけでは当然終わらない。容赦なく畳み掛ける。
四方八方、振り落とされている最中の帝王レクスに向けて、鋭く尖った無数の障壁で出来た針で囲み込む。
いくら針とは言え、この本数を直撃すれば痛いでは済まされない。
体勢を崩されたままで、対応し切れないだろう帝王レクスへ、私は手を握り潰す動作と共に針を放った。
「ヒヒーンっ!!!!」
「どっせいっ!!」
一撃目は取ったと思った矢先、体勢を崩していたハズの軍馬が帝王レクスの襟首を噛み、倒れる自身を庇うことなく、飼い主である帝王レクスを無理矢理上へと引っ張り上げる。
帝王レクスはその助太刀に対応して、剣を躊躇いなく振り、障壁の針を斬り裂き、切っ先から溢れ出た魔力の衝撃波も伴って、針を全て薙ぎ払った。
「っ?!」
自身を顧みずに主君の手となり足となった軍馬と、それに阿吽の呼吸で応えた帝王レクスの剣技に驚きは隠せない。
何より自身の負傷も考えていない軍馬の行動を見て、その身体の下に私は思わずクッション性の高い障壁を張ってしまう。
なに敵に塩を送っているんだと自分でも思うけど、そのおかげで軍馬は怪我無く済んでいるようだった。
「無事か、バッラー!!」
「ぶるるっ!!」
私が勝手にホッとしているのも束の間、彼らは再び背に乗せ背に乗り、こちらへ向かって来る。
人馬一体、とは彼らのことか。敵ながらに感心する。
「覚悟っ!!」
「お断りするわ!!」
障壁を使った妨害をさっきよりも素早く駆け抜けて来た彼らは、私の妨害を意にも介していないと思わせるほど。
奇襲や搦め手も警戒されてしまい、全て不発に終わった後に跳躍して剣を振りかぶる。
力を良しとするズワルド帝国の帝王とは言え、ここまで前線に出張る王様も早々いない。
同時に、これだけの個人の戦闘能力に長けた王様は人類史を遡っても稀だろう。ま、ここは妖精界だけどね。
振り抜こうとした剣の軌道上に細かな障壁を幾つも置いて、自由に剣を振るえないように妨害。
それによって威力の落ちた斬撃波も障壁で横殴りにして薙ぎ払う。
攻め込む帝王レクスと、玉座に腰掛け不動を貫く私。
面白いくらいに正反対の戦法を取る私達は少しだけ訪れた静かな空気の間に会話を交わせることになる。
「聞いていた通り、どころではないな。障壁と治癒魔法の使い手とは聞いていたが、ここまでとは」
「ショルシエからだとしたら、随分古い情報だってことは教えてあげる」
「違いない。我々にとって、3年という月日は短いものだが、貴女がた達にとっては長く、実りのある3年だったとお見受けする。我らが帝国軍にも見習ってもらいたいものだ」
帝王レクスもショルシエやエストラガルなどから私達について話を聞いていたのでしょうね。
それでもなお、私の力を低く見積もっていた、と彼は素直に自分の見積もりの甘さを反省しているようだった。
正直、予想していた帝国の王とは全く違うものだ。
もっと横暴で粗野で、さぞ品のカケラも無いだろう相手だとばかり思っていたのに、目の前で軍馬に跨る彼は威風堂々。
気品も知性も、力強さも兼ね備えた王様らしい王様。
それが私から見る帝王レクスへの第一印象。
「改めて名乗ろう。我が名はレクス・イニーツィア・ダイナ・ズワルド。ズワルド帝国の帝王だ。貴女の名をお聞きしたい」
「……諸星 真白。『花びらの魔法少女 アリウムフルール』」
極めて紳士的な対応を続ける帝王レクスに自己紹介を促され、私はそれに応える。
ますます私の考えていた帝国の王とはかけ離れている。同時に、これほどの王が何故平和を乱すようなことをするのか、疑念は深まるばかりだ。
「……王名は名乗らないのだな」
「悪いけど、王族だからといって王家を継ぐわけじゃないわ。ミルディース王国は既に滅びている、あなた達帝国の手によってね」
「自分はもう部外者であると?」
「少なくとも、国を背負えるほど教養は無いわ。あっちでやりたい事もあるしね」
王族としての名を名乗らなかった私に対して、帝王レクスは不満を隠さない。
申し訳ないが、私は既に妖精界で滅びた国の王族の末裔であって、国を治める王家の一員ではないのだ。
どんなに望まれても、この差は大きいと私は考えている。
大変長らくお待たせしました。
本日より更新を再開します。




