戦争
ビリビリと響き渡る、地鳴りのような声。野太いわけでもない、ただ大声を張り上げて叫んでいる様子でもない。
戦争という、誰もが周りのことなど構う余裕が無くなり、集中の度合いによっては音や声が聞こえなくなっていてもおかしくはない。
そんな中で誰もが一瞬でも耳を傾けてしまうような何かをその声は持っていた。
「我が国の精鋭たる者達が情けない。軍隊としてはまだまだ未熟なレジスタンスに遅れを取るとは何事だ」
その声の主は背の高い男性だった。帝国軍よりも更に奥、せり立つ崖の上に軍馬に当たる生き物だろう筋骨隆々なその背に跨っている。
荘厳なマントに身を包み、跨る軍馬には煌びやかな装飾が施されていて、その姿から身分の高さがうかがえる。
それもそのはずだ、
「……赤髪に、青灰色の瞳!?」
そして何より、その男性は赤い髪と青灰色の瞳を持っていた。これが、妖精界ではどういった意味を持つのかは、もはや語る必要もない。
彼は私と同じ、『王族』だ。
「レジスタンスと旧王国には新たな王族が現れたようだが、それがどうした!!我らが帝国にはこの『レクス・イニーツィア・ダイナ・ズワルド』が付いてる!!陣形を立て直せ!!レジスタンスを打ち破るのだ!!」
「「「おおおおおおおっ!!!!」」」
たったそれだけで、レジスタンスに押されていた帝国軍が盛り返す。
私みたいに支援するための魔法を使ったわけでもない。ただ言葉を投げかけただけだ。
それだけで帝国軍の士気は戻るどころかうなぎ登りに上昇し、レジスタンスを押し戻す。
飛んでくる魔法の数も明らかに増えた。防御が必要な魔法を障壁で弾き、防ぐ。
ただでさえ多かった障壁の操作量が更に増える。不可能なわけではないけど、自分1人を守るだけではないうえに帝国軍への被害も考慮しながら操作するのは、中々に骨が折れる作業だ。
「貴殿が新たにこの地に入った王族とお見受けする」
「……!!」
他に構っている暇はない。そんな中で私の耳に入って来たのは、帝国の王。
帝王レクスが私だけに向けた言葉で。
「『王』に足る器があるか、この目で見極めさせてもらう」
鞘から抜き放たれ、襲いかかって来る剣閃を防いだのはほぼ勘を頼りにしたものだった。
アレだけ離れた距離から正確に放たれた斬撃を飛ばして来るなんて、帝王様は随分と武闘派だと思って視線を向けると、いたハズの崖の上にはもういない。
「見事な城よ。王を守り、民を守るための象徴であろう。だが、玉座に座ることだけが王ではないぞ!!」
速い。率直な感想はそれだ。
さっきまでかなり離れた崖の上にいたハズなのに、軍馬が地面を滑るように駆け抜け、あっという間に距離を詰めている。
斬撃を障壁で防ぐ。でも一枚じゃ足りない。5枚以上の障壁が両断されて、ようやく勢いが止まるほどの威力。
剣撃の威力ならルビーやフェイツェイよりも上かも知れない。そう思わせるほどの魔法剣の使い手。
王であるなら為政者。政治の世界で生きているハズだというのに、並の軍人なんかより遥かに上の戦闘能力を持っているのは力を象徴とする剣を掲げている国だからか。
王であろうと、いやズワルト帝国の帝王だからこそ一流の武芸者でなければならないということかもね。
「はぁっ!!」
「ハハッ!!やりおる!!そちらも一流の戦士というのは本当のようだ!!」
障壁の玉座から離れないまま、障壁を操る量を引き上げる。
それ見た補給係のレジスタンスの団員がポカンと口を開けているのを横目に、障壁を操り、レジスタンス、帝国軍の防御と帝王レクスへの妨害と攻撃を加えていく。
帝王レクスは笑い声を上げながら、手綱を見事に操り、障壁の妨害をモノともせずに駆け抜けて行く。
「そこ!!」
障壁の障害を駆け抜け、飛び越えてこちらに向かって来る姿は戦場を駆け抜ける英雄の物語の1ページにも見える。
ただ障壁は堅い壁だけじゃないのは、私を相手にして来た人ならよく分かっている。
軍馬が飛び越えた先、着地地点に極端に柔らかい障壁を設置して軍馬の姿勢を崩す。
それに合わせて帝王レクスの身体へ他の堅い障壁を押し付けて、軍馬の背から彼を落とした。




