戦争
「進め進め!!」
「俺達の方が勝っているぞ!!」
激しい魔法の撃ち合い。数では間違いなく勝っているはずの帝国軍側が、ジリジリとその進行が緩慢となり、やがて止まり、そして横に広がりながら後退し始めていた。
レジスタンスの魔法は私の『固有魔法』、『幾千年紡ぎ紡いだ我が居城』によって強化されているし、あちらの魔法は障壁魔法によって届いていない。
一方的に攻撃を受け、放った攻撃は無力化される。ともなれば、いくら歴戦の戦士を揃えようとも陣形が崩れ、戦線の後退もやむを得ないだろう。
私達防衛側とすれば、相手を追い返せれば勝ちだ。このまま行ければ勝つことはそう難しくないと思ったその時。
バァンっという空気の弾ける轟音と爆炎が戦線のど真ん中で起き、双方にまたどよめきが起こる。
「な、なんだぁ?!」
「パッシオーネ団長だ!!相手は……」
「『砕裁のエストラガル』だ!!」
戦線の中心でもう一度轟音と爆炎が上がる。パッシオと戦っているのは帝国騎士団の団長、『砕裁のエストラガル』。
妖精界から人間界へ、私を狙って襲撃して来た時に指揮をして、私と戦った破壊属性を操る妖精だ。
旧ミルディース王国騎士団の副団長であり、現在はレジスタンスの団長を務めるパッシオと、帝国騎士団の団長であるエストラガル。
共に軍の最高司令官に位置する人材と言えるだろう。
そんな立場の二人がこの戦いで最前線での真っ向勝負を始めていた。
「ぬぅんっ!!」
「はぁっ!!」
野太い声と共に振り下ろされた拳と、力強く振るわれた尾がぶつかり合う。
見た目では尾を振るったパッシオに勝ち目は無いように見えるけど、その予想を覆し、お互い尾と拳が弾かれ合うという結果になる。
間髪入れずにパッシオが両手と指を口と牙に見立てた動きで魔法の発動を補助。
現れた炎の牙が拳を弾かれ、体勢を崩しているエストラガルへと襲いかかる。
しかし、彼も一流の戦士だ。崩れた体勢を無理に整える事なく、逆に脚を振り上げて炎の牙を蹴り砕く。
「『荊の(ソニア)――』」
「『重撃の(トリプル)――』」
それでも体勢的に有利なのは尾を使って戦うパッシオだ。四肢を駆使して戦うエストラガルはどうしても体勢を崩しやすい。
「『炎鞭』!!」
「『一拳』!!」
だというのに、彼はそれを意にも介さずにパッシオの攻撃を相殺し続ける。
2人とも、この妖精界では異質な戦い方と言える。魔法での遠距離攻撃が中心である妖精界の戦いの中で、自らの身体に魔法を纏わせて戦う二人の戦法はこの戦場では彼ら以外には見ない戦い方だ。
そもそも軍という大きな集合体で戦うのには向いていない戦い方だ。個と個を想定した戦い方は戦争という集団と集団との戦い方では有用ではないハズなのだけれど。
パッシオとエストラガルほどの技量ともなると、それすら関係無くなって来る。彼らの激しい応酬の結末はそのまま両軍の勝敗にも関連付いて来ることだろう。
それほどまでに激しい戦いであり、この戦場においてあの二人の戦いだけは異なる領域の戦いとなっていた。
「負けないでよ」
人間界へ侵攻して来たときのエストラガルはハッキリ言って私達の実力を見誤った状態で戦いを始めていたから、終始私に押されていた。
情報と現実の齟齬があり過ぎて、戦いのペースを誤ったし、その修正をしている間に私に押されてしまって、不利な状況を立て直すのが難しかったからね。
それと比べて、パッシオに関しては実力を知っている以上、最初からそのつもりで来ている。
戦いというのは単純な実力比べではないというのがこうしてみるとよく分かる。
エストラガルは強い。次に戦えば私は勝てない可能性は普通にあるくらいには。
そんな相手と戦うパッシオを心配しながら、私は今の私の戦いに集中する。レジスタンスも帝国軍も団長同士の一騎打ちが始まったことで更に活気づいている。
「『幾千年紡ぎ紡いだ我が居城』」の効果と障壁魔法による防御によって、基本的に優勢なのはレジスタンス側だ。
こちらで勝敗が決せば、団長二人の一騎打ちの内容は関係が無くなる。どちらかの敗れた方の団長がこの場からの撤退戦を始めるのを余儀なくされるからね。
その判断を何処でするかも重要なポイントだ。二人の団長には勝敗に関わらず、部下たちが無為に傷を負う選択はさせてほしいと願う中。
「何を腑抜けている!!!!」
魔法と破砕音、怒声が響き渡る戦場で、クリアに聞き取れる程の声が辺りに響き渡った。
作者の伊崎です。
1週間ほど更新を止めてしまい申し訳ありません。
先週の日曜から数日のあいだはワクチン接種の副反応によりダウンしていたのですが、そのあとは仕事の方で避けようのないトラブルが発生してしまい、執筆にまで手が回らない事態となってしまいました。
今後、しばらくの間は同じような状況が続きますのでここ最近よりも更新ペースが落ちてしまいます。
活動報告の方にも書いてはありますが、約1か月程度は休載とお考えいただければ幸いです。
体力的、時間的に余裕がある時は更新するつもりですので、よろしくお願いいたします。




