戦争
「チェンジ!!『フルーレ・フローレ』!!」
その場で魔法少女に変身した私は、団員たちの雄叫びに応えるように魔力を練り上げる。
彼らを鼓舞するために、かれらを守るために、何より彼らにとって象徴ともなる都合の良い魔法を私は持っている。
「『固有魔法』!!」
浮かび上がるは障壁によって隅から隅まで再現されているらしい白亜の城。
スケールは少し下がるけどね。王都にそびえる象徴とも言えるこの城がある事はきっと彼らの心を更に団結させてくれるだろう。
「『幾千年紡ぎ紡いだ我が居城』」
薄っすらとオリジナルの色と同じ色がついた障壁がブローディア城を模り、魔法としては巨大な物となる。
これだけの規模の魔法なんて早々見たことも無いでしょうね。双方の陣営に動揺が伺えたけど、レジスタンス側は更に高い士気を、帝国軍は一瞬怯んだように見えた。
まだ豆粒ほどの距離にいてもこの魔法は良く見えることだろう。
「任せたよ」
「ええ、蟻の1匹も通さないわ。……気をつけて」
「わかってるさ」
攻撃と指揮を担うパッシオと防衛と治療を担う私とでは戦場において役割が違う。
背中を見せ、飛び出した背中を見送った後、私もぶつかり合う寸前まで来た戦地へと目を向ける。
『幾千年紡ぎ紡いだ我が居城』の効果により、レジスタンスの団員達の能力は飛躍的に上昇している。
防御も私がひと通り行うとなれば、この戦いに負けることは無いと考えている。
ショルシエか、ショルシエの分身体が出て来れば、シャイニールビーやパッシオ、カレジといった強力な戦闘能力を持った者だって出て来る。
他の街を転移陣を経由して襲うにしろ、出来る事に限界はある。
他の街にもパッシオやカレジのお墨付きのレジスタンスの団員が指揮をしているし、アズールやサフィーリアさんも旧王都を守っている。
私達が開発した携行型の障壁、『陣壁』も配ってあるし、大きな街には人間界でも実績のある防衛システムが配備された。
そちらの被害は軽微と見るべきだ。
だからこそ、この戦いの真意を見極める。この正面からの大部隊の戦いが本当にただのブラフで、手薄になった他の街を襲うのが主目的なのかと。
しても仕方のない警戒なのかもしれないけど、しておくべきだと思っている。
この戦いで何かが得られる確証があるから、帝国は侵攻して来たはずなのだから。
「「「「おおおおおおおおっ!!!!!!」」」」
そうかんがえている間に、帝国兵とレジスタンスの団員がそれぞれ魔法の射程圏内に入った。
双方が一斉に魔法を放つ。近接戦闘を試みる者は殆どいない。
これが魔法の発展した妖精界での戦争。個々が魔法を放ち、撃ち落とす魔法合戦が始まる。
『幾千年紡ぎ紡いだ我が居城』の効果により、強化された団員達の魔法は次々と帝国軍の魔法を打ち破り、帝国兵へと降り注いで行く。
密かに一撃で命を奪うほどの威力のある魔法を小さな障壁で削ぎ落とし、でもダメージは残るように調整する。
レジスタンスの団員達には申し訳ないとも思うけど、それでも命を積極的に奪うことはどうしても看過出来ない。
こればかりは譲れない。国に彼らは命じられるがままにやって来たのだ。
旧ミルディース王国の住人であるレジスタンスの団員達からすれば、憎むべき相手でもそれは国だ。人じゃない。
私のエゴだとはわかっている。それでも、私はこの戦いで極力戦死者を減らしたいかった。
「撃ち漏らしがあるぞぉっ!!」
「ダメだ、間に合わん!!」
レジスタンス側が押しているとは言え、数えるのも億劫な程の魔法の撃ち合いの中には運良く掻い潜って来る魔法もある。
あちこちにあるそれを斜めに障壁を展開して受け流し、被害の無いところに落とす。
まともに受け止めても良いけど、進軍の邪魔になるし何より効率が悪い。
魔法が消えるまで受け止め続けなきゃならないからね。
こうやって弾いた方が手早く出来るただでさえ、操作している障壁は目まぐるしく変化しているのだから。
「ひ、姫様の障壁魔法だ!!」
「凄いぞ!!こちらに魔法が飛んでくる前に防いでいる!!」
「進め進めぇっ!!俺たちには真白姫がついている!!」
なんだか妙に担ぎ上げられた言葉があちこちから聞こえて来る。
恥ずかしいからやめてほしいと思いつつ、それで士気が保たれるならそれでも良いかとこの場で考えるのをやめておく。
『幾千年紡ぎ紡いだ我が居城』の中にある玉座に座りながら障壁魔法を操り続けていると、戦いには変化が訪れ始める。




