戦火の臭い
結界魔法と障壁魔法は基本的には同じだけど明確に違うポイントが1つある。
障壁は平面、結界は立体という点だ。障壁魔法で箱型の立方体を作る時、六枚の障壁を作る必要があるのが障壁魔法。
対して結界魔法は最初から立体だ。組み合わせることもなく、突然複雑な形の壁を生成することが出来る。
だから、魔方陣を結界魔法で作るときも同じ。一つの結界魔法でその魔法陣を再現することが出来る。
障壁魔法でこの魔方陣を再現しようとしたら、数百枚以上の障壁を細かく組み合わせる必要がある。
私になら出来る自信があるけど、一つを魔法を操るのと数百の魔法を操るのどちらが楽でどちらが難しいかは考える必要も無く明白だ。
魔法陣という複雑な技術を結界魔法で拡大再現するのは当然相当な技量がいる。言うほど簡単な事ではないけど、それを苦も無く操る巫さんは間違いなく一流の魔法少女だ。
巷では無数の障壁魔法を操る私と、自由自在の結界魔法を操る巫さん。それと山梨の甲府支部に勤めている『水晶の魔法少女 クリス』さんの最硬と称される水晶魔法。
そのどれが最も優れた防御力を持った魔法少女なのか、議論されることも多いのだとか。
【ここ、ここをあと10㎝伸ばして。こっちは3㎝短く】
【OK】
魔法陣のプロフェッショナルの瑞鬼ちゃんと結界魔法のプロフェッショナルの巫さん。この二人が組み合わさって初めて高いクオリティの魔法陣が出来るのだ。
瑞鬼ちゃんは常々お姉ちゃんがいなかったらこんな事できないと口にしているし、巫さんも瑞鬼ちゃんへのリスペクトを絶対に忘れない。
特に近しい間柄の双子ならどちらかが相手を嫌ってもおかしくないと思うんだけど、この二人はとても仲良くやっている。
私達ですらちょくちょくケンカしてるしなぁ。特に千草と墨亜は時折ケンカしている。あれは反抗期の墨亜とそれを注意する千草っていう今の時期が悪いだけなんだけど。
「素晴らしいね。難しい注文をたったこれだけの時間でほぼ仕上げに入っている」
「所長も魔方陣を読めるんでしたっけ」
「基礎的なことだけだがね。とにかく、同じことを出来るかと言われれば当然NOだ。君達魔法少女の才気にはいつだって舌を巻くよ。もしかしたら、魔力というのはそういうことにも関係しているのかもね」
2人の作業の様子を見るのは初めてだったらしい東堂所長は感心するように頷いて、新しい着眼点を得ているようだ。
確か、所長の主な研究内容は魔法少女と魔力の関係だったハズだ。ようはどうして一握りの女性が魔法少女となるだけの魔力を貯蓄出来るのか、他の人々との差は何なのか。
そういう事を研究してたと思う。
才能が魔力を呼ぶのか、魔力を得ること自体が才能なのかも知れない。何にせよ、魔力を操ることが出来るというのはそれだけで特殊技能だという事だ。
【よし、これで良いかな】
【そっちにデータ送るから、チェックよろしく】
「了解。……うん、今来たのを確認したわ。所長、プリンターあります?」
「あぁ、あるよ」
送られて来たのは作られた魔方陣の製図データだ。これをパパっと作るのも巫さんだ。なんでもこれを覚えるためだけに工学系学科に進学したのだとか。
CAD、だったかしら。凄いわよね。魔法の設計図をパソコンで作るのよ?そんなことをしているのは世界で彼女だけよね。
送られて来たデータを印刷して、これで即席の符呪の完成だ。まさに科学と魔法の融合と言えるだろう。
これに魔力を送り込んで、外に投げつけると魔法陣が起動して3m×3mの障壁が展開される。
大きさ、堅さ、柔軟性、どれも申し分ない。これなら誰でも扱えるハズだ。何人もの人が使えば、それだけで帝国の魔法も進軍も止められる。
導入を進める結界魔法の防衛システムと合わせれば、しばらくの間は人々の安全を確保出来る。
攻撃の効かない相手を攻撃し続けるほど、攻める側の気が滅入る事もない。
攻めているのに効いていない。それを何時間も見せつけられると、人は相手が自分達なんかよりもずっと強いんだと思ってしまうものなのだ。
攻撃は最大の防御。防御は最大の攻撃なんて言うのは案外事実に基づいていたりもするのよね。




