戦火の臭い
「盛り上がっているところすまないね。話を戻しても良いかな?」
【すみません。ほら瑞鬼、お喋りしに来たんじゃないのよ。仕事よ、し・ご・と】
東堂さんが笑いながら脱線した話の軌道修正を図り、巫さんが瑞鬼ちゃんを小突いて落ち着かせる。
双子と言えど、こう言う時はお姉ちゃんの方がしっかりしているのかな。
三年前の印象だと瑞鬼ちゃんの方がしっかりしている印象があったけど、ハキハキと切り替えがしっかりしている巫さんの方が大人な対応だ。
【で、具体的に何をすれば良いんですか?】
「やること自体はそこまで難しくもないわ。街一つ囲む結界を符呪に込めたいの。2人なら出来るでしょ?」
【それなら専門ですから、任せてください】
魔法陣と結界のスペシャリストである2人が組み合わさると、街一つを囲む結界を張ることはもはや簡単な事だ。
彼女達が作り出したこの防壁システムは、世界中の街に導入され、人々を魔獣から守るための安全装置として機能している。
開発には私や紫ちゃんも加わった魔法で、私達の中でも傑作と呼べる代物だと自負している。
それを旧ミルディース王国の各街に緊急に配備する。
戦いに間に合うかどうかはギリギリだけど、今後の事を考えれば考えるほど、この防衛システムを街に導入するのはメリットだ。
「それともう一つ。規模を縮小して、協力な防壁を発動させる物も欲しい。むしろ数が欲しいのはこっちよ」
【それって即発動のヤツ?】
「ええ、出来れば投げて使えるなら最高」
数が欲しいのは即座に発動でき、誰でも使える『携帯出来る壁』だ。
誰にでも強力な障壁魔法を使えるようにする。簡単に言えばそういうことだけど、これは難しいことだ。
人によって違う魔力の出力の強さは違うし、誰でもという点が最も難しい。
使い方は簡単で、どんな人が使っても同じレベルの障壁が出来なければ意味がない。
中々無理難題なオーダーだと思うけど、話を聞く巫さんの横で瑞鬼ちゃんが手元に用意した紙にガリガリと一心不乱に何かを書き込み始めている。
【誰でも簡単に、魔力を充填したら投げ付けて発動。シンプルだけど難しいオーダーね】
「私達にとっては簡単だけれどね」
【投げ付けて発動ってのがまた味噌ね。暴発防止?】
「それもあるし、相手も怯むでしょ?」
障壁や結界を使う私と巫さんからすれば、基本の技だ。ただこれを万人に、となると私達ですら唸るしかない。
それを解決するのが、密やかな天才である『符呪の魔法少女 瑞鬼』ちゃんだ。
【ーー出来た!!】
「流石ね」
【試作段階だからまだなんともだけどね。瑞鬼、それ貸して】
瑞鬼ちゃんが一心不乱に紙に書き込んでいたのは即席で作られた魔法陣だ。
私がオーダーしそれを巫さんがまとめて瑞鬼さんに伝え、それを瑞鬼さんが書き上げる。
実は良くある事で、電話でこういう事を注文するのは良くある間柄だったりする。
彼女達が作る魔法陣は非常に質が良い。納品も早いしね。
私達が扱う魔法とは一味違う魔法陣という技術を操る双子は、今となっては魔法という技術と科学とを掛け合わせるための架け橋にもなり始めている。
【うーん、少し発動が遅いかも。出力も、1m×1mくらいじゃ足りないでしょ?】
「3×3は欲しいわ。強度は?」
【今のところ申し分無し。逆に硬過ぎるかもね。もう少しウィットに富んでいけば範囲も応用にも使いやすいかも】
天才魔法陣製作者の瑞鬼ちゃんに対して巫さんの役割はその検証と正確なオーダーの反映。
これが地味だけど超重要。顧客が求めるものを理解して、それを技術者に確実に伝えるって物凄く大事なのよ。
【おねーちゃん、拡大複製おねがーい】
【わかってるわよ。今やってるから少し待って】
そして巫さんの結界魔法と瑞鬼ちゃんの魔法陣構築能力が組み合わさると、魔法陣は更に精度を上げて行くことになる。
その一つが結界魔法を用いた魔法陣の複製だ。




